第2話 勇者サロン


勇者はサロンにいた。

それも一人では無い。

右も左も勇者、ヒーロー、ゆうしゃ、英雄、ユウシャだ。


一人の勇者が口を開いた。

「神などいるものか!」

「貴様、ここがどこか分からない上でのその発言か!」

「ああ、分からないね!分からない上で言っている!」

「分からないということは我々の想像以上の存在を認めざるを得ないであろう?それこそが神の存在を確定している!」

「見たことの無い、聞いたことの無い神とやらをいると思っているお前の脳はどうかしているのではないか?」

「………!!」

「………!!」

「………!!」

言い合いは続いていたが、結論は出ない。

だから、おのずとこうなるのは目に見えている。


「決闘だ!!!!」


まわりの勇者たちはヤレヤレまたかという顔をして、お互いの顔を見たり、ため息をしたり、頭をかいたりした。

「じゃ、俺が立ち会いしようか?」

立候補したのはキスト。

シーフのキスト。

勇者だけのサロンに似つかわしくないその風貌。盗賊。

しかし、誰も彼がこの場にいることを咎めはしない。

知っているのだ。

勇者の中の勇者。

その事実を。

実力を。

なぜ、その姿なのかを。

「キスト。お前は却下だ。さらに俺たちの技を盗むつもりか?」

「あー…ハイハイ。お呼びでなかったようですなー」

ドッカと腰を下ろしたキストはマスターに向かって言った。

「コーヒーもらえるかぃ?」





二人がにらみ合っている中、

「ということで、ここはゼルドが適任じゃ無いのか?」

「なぜ私が」

「皆が信用しているからさ」

「…わかった」

スックと立ち上がる彼に剣と盾を渡すサロンのマスター。

「相変わらず、分からない人ですね。あなたは」

何も発言せず、ただニッコリと笑った。

マスターが軽々と両手で持つゼルドの武器と防具を受け取った。

受け取る際にゼルドはいきなり重くなった(というか、通常の重さに戻った)武具を背負い、皮ベルトで体に固定した。

「こちらのドアからどうぞ」

マスターから指示されたドアの周りが光っていた。

「逃げるなよ?」

「神に誓って」

「ふん!」

二人がドアをくぐる。

後を追ってゼルドがドアをくぐった。

「では、後ほどドアをご用意いたします」

マスターはそう言って、ドアを閉めるとサロンの一角にあったドアが消えた。

次にカウンターのマスターから正面の壁の位置に大型ディスプレイが現れ、その画面は部屋全体を包み込んでゆき、360度どこを見ても風景が広がっていった。

プラネタリウムの中心に座して見渡せる感じだ。

画面の中の3人がほどよく見渡せる位置にカメラが置かれているような感じである。

全体を見渡した数人の勇者が叫んだ。


「「今回はコロシアムか!」」


「あそこ嫌いなんだよ。見世物みたいでさ。観客いないけどね」

「俺たちが見ている」

「魔法使える方が有利だよね」

「そうかな?」

「人(勇者)による」

などなど、お互いの勇者たる者たちの戦い方ロジックを組み立てて観戦する。

次に相対する場合の予行練習的な視線で。




「うおおおおおおお!!」

気合いを入れる英雄。

「声さえ上げればパワーアップできるのはいかんともしがたいね」

軽く詠唱を唱えて、防御力を上げる勇者。

30m離れた二人を見たゼルドが宣誓する。

「では、今より5時間の時間制限勝負を行う。相手を戦闘不能、もしくは気絶させた方が勝者である」

「双方問題ないか?」

二人がうなずくのを確認した後、上げた手を前に振り下ろした。


「はじめっ!」





「コーヒーもらえるかぃ?」


キストの注文に反応するがごとく、サロンの隅にあるカウンターのマスターの姿が少し、ぶれた。

マスターは少し左右上下を見て勇者たちを見回した。

「えっと、ご注文は何でしょうか?」

「コーヒーをよろしく」

キストが再度注文をする。

「わかりました」

カウンターの視線を左か右へと流し、ふぅとため息をついいた後に準備を始めた。

「あ!コーヒーのおいしいマスターが降臨してる!」

ひとりの勇者が声を上げた。

仮面をしている勇者である。

能面の女面で顔を隠しており、コーヒーに対してかなりうるさい事で通っている。

その勇者が反応したということは、ほぼ100%間違いないのである。


「まじか」

「うっそ!」

「キタコレ!」

「…」ニヤリと笑う者。

片手を上げる者。

サロンの中は活気づく。

そこに居る勇者たち皆へ、マスターは問う。



「私の淹れるコーヒーが欲しくない人は挙手を」



勇者に慕われるマスターの中の人が異世界からの召喚者たちであることはまたの話。

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