お前は何者だ。シーフじゃないのか?
鎮守乃 もり
第1話 目撃者はひとり
巨大で赤黒く、見る者を圧倒し渦巻く炎がパーティーを直撃した。
「防御魔法が…もう、もちません!」
「神官防御魔法との2枚がけでも、あぅっ」
神力を使い果たしたマリアは倒れてしまった。
「マリアさん!しっかりして、マリアさん!」
後衛にあたっていたドワーフのゼムルは焦りの表情を隠せない。
「どうするよ!勇者さんよ!このままじゃと全滅するぞぃ!」
「分かってる、分かってるよ!」
このままでは防戦一方、しかもマリアが気絶して防衛の一角が崩れた。
全体でゆっくり後退しつつ逃げかくれる場所へ移動…
いやいや、それはすでに出来ない。
マリアさんを運ぶための要員が一人必要になる。
魔法使いのエリーはすでに防御魔法展開中で手が離せない。
エルフのメルクスは人を担いで逃げられるほどの力は無い。
「すまない、ゼムル!マリアを担いで逃げてくれ!メルクスと一緒に!ブレスが途切れた時に!」
「お主はどうする!」
「逆の方向へ移動する!」
「メルクスも頼んだよ!」
「わかったわ!」
ゼムルはマリアの上半身を左肩に担ぎ、両手で腰とふとももをがっしりとつかんだ。
そのすぐそばにメルクスはゆっくり移動し、合図を待った。
いつまでも続くような錯覚にとらわれるように炎ブレスは続いた。
が、勢いが弱まったのを見逃さなかった。
「今だ!」
ゼムルたちは全速力で離脱した。
勇者たちは反対方向へ離脱するはずだとちらと後ろを見たメルクスは信じられない光景を見た。
勇者が突撃していったのだ。
「ロッシー!」
自然と足がとまったメルクスの声が響く。
ゼムルも叫ぶ。
「メルクス!」
はっと気づいたメルクスは振り返り、走った。
次の炎はゼルムを狙っていたようだが、勇者に狙いを絞ったかのごとく炎の軌跡が迫ってきた。
ゼルムたちに直接当たることは無かったが、熱波と風圧により飛ばされて気を失った。
エリーは防御魔法を展開しつつ、突っ込んでいった。
勇者はエリーの方をちらりと見た。
エリーは何かを勇者から感じ取り、疲労困憊の中から少しの笑顔を見せた。
「すまない」
ぼそりとつぶやいた勇者の口の動きを見て、エリーもつぶやいた。
「まだです」
ふわっと意識が宙に浮き、無重力感を感じたエリーはそのまま倒れた。
気力が尽きたのだ。マインドダウン。
防御魔法が崩れた。
炎が勇者とエリーを襲う。
「これまでか…」
エリーをかばうように前に立ち、剣を構える勇者に赤黒い渦が迫ってきた。
勇者の右側にいきなり2mの棒のようなものが地面からシュッと現れた。
そこから人間の右腕がにゅるりと現れたかと思うと、勇者の前に防御魔法が展開された。
勇者は何が起きているのか、起ころうとしているのか知るよしも無かった。
その棒のようなものから一人の男が現れたからである。
戦いの場にふさわしくないような恰好である。
その男が防御魔法を展開して炎をくい止めている事実。
「その剣、貸しな」
「お前は誰だ」
「いいから早く貸せ!死にたいか!」
勇者から剣を奪い取ったその男は一振りで炎と本体を切った。
大きな地響きと共に竜は崩れ落ちた。
「危ないところだったなー?な、勇者様?」
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