第51話『トファルディ、突撃』

 

 ニュー・ワルシャワ前面にシミュラクラと主力戦車が並び、一様に空から降り注ぐ星を眺めている。

 僕は戦闘反応で過剰に分泌され気味のアドレナリンを、S-175が抑えてくれていることに感謝しながら、チェックリストを終わらせた。

 武装、二〇ミリ機関砲、対人機関銃、背部ウェポンラックに実体剣、すべてが火器管制と連動し、重心調整も完了。


 城壁の前に二脚兵器が集合し、その前に主力戦車が展開する構図は、その中の一機として眺めてみても壮観だった。

 第四装甲騎兵師団『トファルディ』の残存戦力のほとんどが今回の攻勢に参加するため、前の出撃と比べて数も多い。

 重装備のシミュラクラと爆発反応装甲まみれの主力戦車が、パレードでもするかのように隊列を整えていた。


 まるで甲冑を着込んだ騎士達が、騎馬を引き連れているかのようだ。

 それでも補給物資の不足から、満足に弾薬を補給できていない機体もあると僕はダンから聞いていた。

 重装備というだけあって、兵站にかける負荷は他の部隊よりも上なのだ。


 だが、それもこの隊列を組んだ『トファルディ』を前にはなにも言えまい、と僕は思う。

 騎士がシミュラクラとなり、軍馬は戦車となって大地を駆けて、敵陣に突撃する。かっこいいな、としか言葉が浮かばない。

 語彙に乏しい僕が彼らを眺めていると、肩装甲に赤いストライプを描いたシミュラクラが隊列の前に歩み出す。



『第四装甲騎兵師団長代理、リシャルド・パーカー大佐だ。諸君も知っての通り、共和国軍の撤退の成功は、この作戦の成否に掛かっている』



 ピッ、と視界の隅に突撃発起までのタイマーがポップアップする。

 おそらく、この作戦に参加する陸軍、そして海軍陸戦隊すべての機体に共有されているはずだ。

 赤いストライプを描いたシミュラクラが、通信の主、リシャルド・パーカー大佐の機体だ。


 師団長代理というだけあって、機体も師団本部付きのものを改造したのか、通信用アンテナが増設されていた。

 武装もなにもかもが、他の『トファルディ』のシミュラクラと変わりなかった。

 だというのに、リシャルド・パーカー大佐の機体だけは、他の機体と違ったオーラのようなものが見えるような気がした。



『我々はこの地より撤退しなければならない。首都も陥落し、すでに国土のほとんどは帝国に占領されている。……だがこれは、敗北を意味しない!』



 ぞくり、と僕はなにか熱気のようなものを肌に感じ取る。

 それは本当に僕の肌だったのだろうか、それともシミュラクラのセンサー系のなにかか、それは分からない。

 けれどもその熱気はたしかに感じることができた。


 僕には分からない熱気が。熱意が。猛りが。

 じわじわと空気を侵食していって、一つの塊となってこの集団を統一させる。

 逃げに逃げて耐えてきた僕らは、ここに至りついに攻撃に打って出るのだ。

 


『我々は、再び共和国に戻る為に、再びこの地に戻る為に、再び我らの国旗を首都に掲げる為に、この作戦を成功させる!』



 カウントがゼロに近付く中、パーカー大佐の機体は前へと歩いていき、背後で戦列を組む『トファルディ』や作戦参加機に向けて吼える。

 まるで中世の騎兵指揮官の如く、パーカー大佐の機体は居並ぶ戦友たちを一見し、これから自らが突撃する前方を見遣り、さらに歩を進めた。

 カウントが一桁になりかかった時、パーカー大佐はこの演説を締めくくるべく、最後に同胞達に向けて叫ぶ。



『我らは来たりて目にし、神により勝利する! ヤン・ソビエスキー万歳! 第四装甲騎兵師団『トファルディ』……』



 瞬間、カウントがゼロになり、



『―――前、進!!』

 


 パーカー大佐の声に合わせ、第四装甲騎兵師団『トファルディ』を中核とした部隊は、突撃を開始した。

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