第48話『帝国印の剣』

 作戦開始までの時間、何度か敵の榴弾砲攻撃があったけれども、どれも見当外れなところに着弾していた。

 僕は頭上を通り過ぎる砲弾が、空気を切り裂いて飛んでいく音を珍しげに聞きながら、ダンと打ち合わせをした。

 SIM-9Eの点検整備は完了していて、その無茶苦茶な使い方に説教されたけれど、打ち合わせの要点はそこじゃない。



「わざわざ回収してこなくても良かったのに」


「あったほうが困らないと思ってな。急造のウェポンラックだから、始動は爆砕ボルト、使ったら再固定はできない」


「うへ……使いどころが難しそう」



 ドライバーシートにちょこんと収まっている僕がそう言うと、ダンは苦笑しながら機体の背後を見た。

 そこにあるのは今さっきダンが言った、急造のウェポンラックと、それに固定されている敵貴族から分捕った一本の剣だ。

 メアリーの使っているカタナよりも切れ味が良いからと、ダンが回収して僕の機体に取り付けてしまったのだ。


 この手の武器はメアリーが似合っているよと言うと、あいつは帝国の武器は使わないだろうよ、と帰ってきた。

 まあたしかに、メアリーはそういうところがあるのは分かるけど、それにしたって帝国が大嫌いな僕に持ってくることもないだろうとも思う。

 なんにせよ、たしかに切れ味が良くて、独房で「あの剣は超硬ナイフより使いやすかったな」とは思ってたんだけど。


 だからって言っても、僕に持ってくるなと言ってやりたい。

 嬉しくないわけじゃないけど、いや、でも嬉しいってわけでも―――、ううん、やっぱり少し嬉しい。

 出自があのくそったれ貴族のものであっても、良い武器っぽいのは確かなのだし。



「使いどころは難しいかもしれないが、始動自体は爆砕ボルトなんで確実に起動するようになってる。重心も調整したんで大丈夫だ」


「狂ってても直接繋いであるから、僕のほうでなんとかするよ」


「頼もしいお言葉だな。新米のぺーぺーとは思えない言葉だぜ?」


「仮想空間の圧縮訓練って、わりと洒落にならない体感時間提供してくれるからね……」


「それに追加で実戦立て続けか……よく持つよな」


「まあね、僕だってびっくりしてる。S-175がいるから大丈夫なんだと思うよ」


「なるほどな。で、機体の調子はどんな感じだ? 視覚とかに違和感ないか?」


「んー……」



 視界転換だけしてみて、僕はセンサー系に違和感がないかを確認する。

 こうして視界転換をしてみると、人間の視覚はかなり劣っているんだなとか思う。

 いざという時のアイボールセンサーMk.Iとはよく言ったものだ。



「おっけい。違和感ないよ」


「了解。じゃあ万全だ。あとは出撃するだけだな」


「うん、そうだね」



 接続を切りつつ、僕は一息つく。

 作戦開始は宇宙軍の軌道到達を待って行われ、軌道上からの攻撃に合わせて突撃を開始する。

 軌道上爆撃によって混乱状態にある敵軍に対して攻撃し、その勢いと戦力を出来るだけ削ぐ。


 それが成功するかは、宇宙軍の軌道上爆撃が成功するかにかかっている。

 軌道上爆撃が不十分であれば敵軍の混乱は想定よりも早く回復し、奇襲というアドバンテージが失われる。

 そうなると数的に劣勢な共和国軍の攻撃は、必然的に多大な損害を出すはめになる。


 奇襲による一撃離脱、それが今回の共和国陸軍に課せられた任務なのだ。

 下手に失敗できない作戦、ここで失敗して逆襲なんかされた日には、目も当てられない。

 時間稼ぎのための攻勢―――、その準備も終了し、僕らは宇宙軍からの連絡を待つだけになった。

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