第34話『弾雨の中へ』
僕らは敵機を倒す。
それはとてつもなく簡単で、単純なことだった。
こちらの対砲兵射撃によって砲列に損害を出し、さらに対戦車ミサイルによる攻撃が無力化されると、帝国軍は左右に戦力を延ばして包囲しようと試みた。
しかし、僕らがまたのこのこと包囲されると思ったら、大間違いだ。
『こちらベルズ・スコードロン、これより
『ボヘミア・スコードロン、了解。こちらは
『ベルズ・リーダーよりボヘミア・リーダーへ。レーダー誘導対空火器は破壊するが、依然として赤外線誘導兵器は健在だ。幸運を』
『こちらボヘミア・リーダー、了解。神のご加護を』
片手間に空軍の無線を聞きながら、僕らはニュー・ワルシャワの城壁を越えた。
甲高いエンジン音を轟かせながら二機一組の戦闘機編隊が大気を切り裂いて、帝国占領地帯へと飛び込んでいく。
僕らも同様にローラースケートシューズのコンバットタイヤをぶん回しながら、敵軍へと突撃しはじめた。
身長四メートルの巨人となった僕は、時速八〇キロでなだらかな草地を疾走していく。
『こちら《ヴェパール》のハル少佐です。これより前線観測機からの情報に基づいて艦対地ロケット砲撃支援を開始します!』
『同じくガーティーベル。対砲兵射撃に警戒して《ヴェパール》は少しばかり後方に下がる。我々ができるのは砲撃支援くらいになるから、気をつけてくれ』
『『『「了解」』』』
今回、僕の相方はコードLとなっている。
第一班がマルコム大尉、フィッシャー、メアリーの三機で構成され、これが鏃の形に逆Vの字になって前衛となる。
第二班は僕とコードLの二機で、逆Vの字の後ろに肩を並べて後衛となる。
これは精神衛生上、安定しているとはいえない二人を前衛から避けるという意味があった。
他にも、直接機体と繋がっている僕とコードLならば、なにかが起きても咄嗟に反応できる。
『マルコム・フレミングより各機、これより任務部隊一七八九は敵片翼への強襲を開始する。他部隊との連携を頭に入れておけ!!』
野球帽を被ったマルコムの顔は、僕が見た御爺ちゃんのものではなく、完全に教導隊先任士官そのものだった。
この世界にいるどんな種類の鬼軍曹でも、このマルコム大尉の覇気には敵わないだろう。それがとても心強い。
そうだ、僕らは、そしてこの任務部隊一七八九は、修羅場を潜り抜けてきた。
僕だってその一員だ。何十人の屍の上に立つ、人間もどきの少女もどき。
そのもどきがなにをできるか、なにをしでかすか、たっぷりと帝国の野郎共に教えてやる。
僕はなにも期待していない。ただ、帝国に敵対するという行為が、僕を満たしてくれる。
コンバットタイヤをぶん回し、時速八十キロ近くで突撃する僕らの上を、一四〇ミリ・ロケット弾の群れが通り過ぎていく。
《ヴェパール》だけでなく、ロケット砲兵隊のものも混じっているのが、ロケット砲弾にタグ付けされた部隊コードで分かった。
さらにはマップに表示されている部隊は、僕らの他に五つ。
彼らは第四装甲騎兵師団『トファルディ』の面々だ。
三つは主力戦車を中心とした部隊で、残りの二つはシミュラクラ部隊となっている。
爆発反応装甲や増加装甲で防御力を強化し、敵を粉砕する武装を持つ現代の重装騎兵達。
『弾着まで残り五……四……三……二……』
ハルの声が、僕たちの頭に響く。
タグ付けされたロケットの雨が、地表へと降り注いでいく。
僕は前にもやった通りに、安全装置を解除する。
そこに躊躇いも迷いもない。
僕はこうなることを、シミュラクラに乗ることを、S-175といることを、止めたくない。
タグ付けされたロケットの雨が炸裂すると同時に、僕らはその黒煙の中へと突撃していった。
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