第3話『繋がれた女―Re-Boot―』③
さあ、ゴミ扱いした歩兵の恐怖に脅えろよ、と僕は口元に邪悪な笑みを浮かべる。
『何だと? いったいどこから―――』
『主人、いけません!!』
四十ミリ機関砲の銃口が外れた瞬間、案山子が身じろぎした。
エーデルのシミュラクラが慌てているのを感じたもう一機の敵は、エーデルのシミュラクラを蹴り飛ばして四十ミリ機関砲と対人用六.五ミリ機関銃を案山子目掛けて掃射しようとした。
HESHの雨が案山子をずたずたに粉砕すればと、そいつはそう思ったに違いない。
だがそいつはもっと速いのだ。
『ぐぅぅぅっ………!!?』
交通事故でも起きたんじゃないかと思えるような轟音と共に、片足のシミュラクラが忠実な臣下の乗るシミュラクラに突っ込む。
突っ込む寸前、片足のシミュラクラの手に銀色に煌くナイフが握られていたのが見えた。予備のナイフがあったのかと戦闘マニュアルが考え出し、甲高い破砕音が鼓膜をビリビリと震わせる。ナイフが折れたらしい。
『アルフレッド!? ええい、練習機風情の貴様が、私の顔にどれだけ泥を塗れば―――』
『泥であるうちは安堵することだ。己が血でないだけマシと思え』
蹴り飛ばされ、姿勢を崩したエーデルのシミュラクラが再び四十ミリ機関砲を構えようとするとき、片足立ちのボロボロのシミュラクラが低く掠れた声で言った。
そしてそう言うと同時に、彼は敵から奪い取った四十ミリ機関砲をエーデルのシミュラクラに向けてぶちまける。
再び轟音が響き渡り、発砲音が市街地に反響して鼓膜を割らんばかりの独奏を奏でた。
独奏が終わると、世界は急に静かになった。
僕はヤクザな男の死体に口付けして、スマートライフルを抱えながら彼に歩み寄る
後ろで物音がしないので、僕以外に生き残っていたニートたちは、うまく逃げ切れたらしい。
それでいい、と僕は思う。
こんな馬鹿みたいなギャンブルに命を差し出すような奴は一人で十分だ。
一人だけで、それっきりで十分だ。
巨人の墓場の中でただ一人立っていた彼は、器用にもその場で腰を曲げた。
彼は、半分が使い物になっていないだろうメインカメラで、僕を見下ろしている。
この巨人の名前は僕のなかの戦術マニュアルが知っていた。
共和国陸軍旧正式採用機、SIM-9Tという。
信頼性に富み、高い汎用性を誇るSIM-9シリーズの、練習機型。
それの―――、特殊作戦仕様。
たった一機しかない、特殊作戦仕様の練習機。
「―――識別番号……S-175ZW1?」
『―――そちらは、ソニアK51というシリアルコードのようだ』
低く響く古参兵のような声に、僕はなんだか安心しきってその場に座り込みそうになる。
『尋常ではないストレスレベルだろうが、まだ倒れないでほしい。やってもらいたいことがある』
「僕に出来るのは小手先でなんとかすることと、このスマートライフルを使って戦ってみせることくらいで、それ以外のことはほとんどできないよ。……僕は今さっきこの世界に目覚めたばっかりで、ついさっきいろいろと吹っ切れたばっかりだから」
苦笑しながら僕が言うと、彼は『そうか』と言ってから、静かに告げた。
『簡単なことだ、ソニアK51。ドライバー、ジーン・ワッツの埋葬を頼みたい』
僕は自分の顔から表情が吹き飛んだのを自覚した。
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