第3話『繋がれた女―Re-Boot―』②
バリケードの向こう側の世界は、巨人の墓場になっていた。
戦闘マニュアルは耳障りで物騒なオーケストラから友軍の到来を感知していたらしい。
その友軍は細身であちこちが壊れている、一本足のシミュラクラだった。
『我が、……我が栄えあるエーベルフドルフ家の
なにが
ワーグナーの聞き過ぎで頭の中がルートヴィヒ二世かヒトラーにでもなってるんじゃないだろうか。
騎士道もへったくれもない虐殺を指揮しておいて、鼠に手を噛まれたら大人気なく銃をぶっぱなして「これが力量差だ」とかいってかっこつけそうな小物感ばりばりの糞野郎が、名前だけ気取ったところで大物に化けるわけがないだろうが。
『たかが練習機風情が我が家名に泥を塗りおって……』
エーベルなんとか家のチンカス野郎が、片足立ちしている友軍機に四十ミリ機関砲の銃口を向けた。
このさき僕が人生において目標とするところは、僕たちニートを侮り蹴散らし、人間扱いをしようともしなかったこのエーベンなんとか家の家名に泥を塗りたくって痰を吐き捨ててやることになる。当面の目標はそれで十分だし人生設計としては申し分ない。
僕は片足立ちして、まるで
勝算はそれで十分あると僕は考える。
もう一機、エーデルなんとか家とは別にシミュラクラがいたけれど、そいつは僕らニートたちに注意を向けて片手間で案山子の警戒をしているから、僕はともかくとして彼は助かるはずだ。
―――そう。
即製歩兵陸戦用0901マニュアルと僕が導き出した道は、そこから不明瞭にぼやけている。
案山子は隙を逃さずに勝利して、わずかに生き残ったニートたちはなんとか生き残るだろう。
じゃあ、お前はどうなるんだと、疑問が浮かぶはずだ。
簡単なことだ。
僕は賭けたんだ。
身心一つずつをオールインして、なけなしのチップを倍以上に増やすために。
案山子は僕が作った一瞬の隙を利用して、あっという間に敵をやっつけてくれるっていう方に。
冷たくなり強張ったヤクザな男の影に隠れ、血塗れになりながら僕はスマートライフルを持ち上げる。
照準器と連動しているレーザー測距・目標指示装置をどちらも起動させているため、共和国軍機は基本的なシステムが無事ならこの敵シミュラクラが「爆撃目標」としてマークされているのが分かるはずだ。
本来、これは空軍の攻撃機が健在で歩兵が航空支援攻撃を要請するときに使うものなのだが、僕と戦闘マニュアルはまったく別の方法にこれを転用することにした。正規の戦闘マニュアルなら、こんな使い方を僕に導き出させるはずがないが、0901は僕にその道を指し示した。
使い捨てである僕は、つまり他のために生きている。
他のために自分を犠牲にする戦術は自己犠牲行為以外のなにものでもない。
本来、それは戦術というべきものではないのだろうが、今の僕にとって、それが最善の道だったのだ。
レーザー目標指示は、文字通りレーザーを照射して敵をマークする。
このレーザーは視認できないが、レーザー検出装置を装備している敵機ならばレーザーが照射されているその方位と、レーザーの種類がおおよそ判別できるようになっている。距離と位置までは分からないが、方位さえ分かればあとはシミュラクラの優秀なセンサー群が対象を見つけ出して排除するだろう。
―――ああ、そのセンサー群が無事であるのなら、だがな?
いきなりレーザー照射警報がビービーと鳴り響いたことに驚いたのか、エーデルなんとか家のシミュラクラはよろめいて銃口を一瞬、
メインセンサーを損失してサブで埋め合わせている状態のシミュラクラが、市街地戦においてどこからレーザー照射を受けているのかを知るのは困難を極めるだろう。
なんたってビルは数百室もある鉄筋コンクリート製の城塞で、道路から屋上まで多種多様な空間に歩兵は展開できる。
そして歩兵は、その多種多様な空間からあらゆる火力を敵にもってぶち込むことに長けているのだ。
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