●お題7―ゲーム/勉強/ナイフ―

 ゲームをしようとあの子が言う。


 ルールもプレイヤーもターゲットも、すべてあの子がきめる。もちろん拒否権などない。あの子にえらばれてしまったら、のがれるすべはない。あの子はクラスの女王様。逆らえる人間は、いない。

 ゲームがおわるのは、あの子が飽きるか、ターゲットがこの中学から去るか、あるいはこの世から去るか――したときだけだ。



 なにかあったら話しなさいと先生は言う。


 だけど真に受けて話せば身の破滅だ。だって先生が信じるのは、お気に入りのあの子だけだから。わらにもすがる思いでうちあけたクラスメイトも死んでしまった。それでも先生は繰り返す。なにかあったら話しなさいと、ばかみたいに繰り返すのだ。

 口先だけの無責任な対応で、先生はいったい何人死なせてきたのだろう。



  ◇◇◇



 今日、あの子が刺された。おおきなナイフで、胸を刺されて死んだ。


 ――通り魔ですって。怖いわね。あなたも気をつけるのよ。

 あちらでもこちらでも、おとなたちはおなじことしか言わない。


 明るくてやさしくて勉強もできて、非の打ち所がない。そんな、天使みたいなあの子を憎む人間なんているはずがないから。だからあの子にひどいことをしたのは、頭がおかしい通り魔にきまっている――らしい。


 まったく、おもしろい。ほんとうは、ターゲットにされた人間がえらんだ第四の選択だったというのに。おとなたちは勝手に見当ちがいの犯人をつくりあげている。だから――せいぜい利用させてもらう。


 お気に入りのあの子が殺されて、先生はとても落ちこんでいるらしい。それはもう、いつ自殺しても不思議じゃないくらいに。




 ――ねえ、先生。うれしいでしょう。あの子のところに行けるんだもの。ほら、これですべてがおわる。


 じゃあね、先生。


 ――さようなら。




     (了)


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