●お題6―曇りガラス/海/記憶―

 薄暗い室内。曇りガラスの窓がうっすらと明るくなっている。ここに連れてこられてからどれくらいたったのだろう。

 かたいベッドにくくりつけられていて、ほとんど身動きがとれない。ガラス越しの光が朝日なのか月なのか人工物なのかも知るすべがない。

 時々波のような音が聞こえるから、もしかしたら海の近くなのかもしれない。


 ……なんて、もっともらしくつらつら考えて、なんとかごまかそうとしているのだけど、もうそろそろ限界だ。

 おおきな声を出したら一緒に出ちゃいそうだけど。どのみちこのままでは時間の問題である。


 おおきく息をすって、一緒に出ないようにキュッと下腹部を引き締めて――


「トォーーイィーーレエェェーーーー!!」


 叫んだ。


「つぅーーれぇーーてぇーーけええぇーーーー!! もれちゃうでしょうがあああああぁぁああ!!」


 ……はあ……なんか、泣けてきた。このまま汚物垂れ流して死んだら化けて出てやる。と思ったけど、犯人わからないや、ちくしょう……。

 そもそもなんでこんなことになったんだろう。今日……きのうかもしれないけど、とにかくここで目覚めるまえの記憶はアルバイト先を出たところまでしかない。バチバチッてすごい音がしたから、たぶんスタンガンかなにか。それで急にからだの自由がきかなくなって倒れたところに、そうだ、なにか薬をかがされて、で、目がさめたら、手足をベッドにくくりつけられていた――というわけだ。


 ……意味わかんない。なんなのよ、もう。



♢♢♢♢♢



 モニター越しにシクシク泣きはじめた女を、男は無感情に見つめていた。


 殺しやしない。再起不能になるまで、プライドも心も粉々に砕きつぶしてやる。おまえが、あいつにそうしたように。


 殺してなど、やるものか。




【完】

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