第11話、奇々怪々、ハンス!
『 余興 』があった為か、コンサートは、いつになくテンポが良かった。 観客も大入りで、盛況のうちに終了。 障害者施設への寄付金も、いつもより多く集まったようだ。
満杯になったアンケート回収箱を手に、香住が言った。
「 帰りに、何か食べて行こうよ! たまには、あたしがおごるわよ? 」
他の部員たちの目もはばからず、嬉しそうな顔で、僕の腕にしがみ付いて来る香住。
・・・いつもより、随分と積極的だ。 開演前の『 余興 』のせいかな? 嬉しいケド・・・
ハンスが言った。
「 牛丼、食べたいっ! 牛丼! 」
・・・お前は、アトで、○ラギノールをブチ込んだる。 1本全部、鼻からな。 待っておれ。
香住が言った。
「 いいわね! 公園の向こうに、新しく出来たんだって。 行ってみようよ♪ ね? 真一 」
「 うん。 そうするか 」
出来れば、2人っきりの方が、イイんだけどな・・・ コイツ・・ 何とかして、どっかに、捨てていけんかな・・・
香住の言葉に、はしゃぎまくるハンスを横目に、僕は思った。
開店祝いの花輪が並ぶ、牛丼屋。 時間は、午後五時を少し回ったくらいだ。 夕食時にしては、まだ早いのか、店内は、意外に空いている。
ハンスは、牛丼に大変興味を持っていたらしく、ウキウキ顔で入店した。
「 へい、らっしゃいッ! 」
「 らっしゃい! 」
「 らっしゃ~い! 」
店の奥へと、店員による、輪唱のような挨拶エコー。 入り口近くにいた店員に、ハンスが、夢中な表情で言った。
「 僕ね、牛丼食べたい! 牛丼だよっ? 牛丼! 牛丼、くださいっ! 」
・・・ガキか、お前は。
カウンターの中から、店長の名札プレートをつけた男性が言った。
「 はいい~、ココは、牛丼屋だよォ~? 外人さん。 いっぱい、あるからねえぇぇ~? たくさん食べてってよおォ~? はいい~、3名様、ご案内ぃ~! 」
「 はい~、3名~様ァ~、有難う~ございますうぅ~! 」
近くにいた、若い店員が繰り返すと、奥の方にいた店員も繰り返した。
「 3名様ぁ~ ありあとォ~、あっしたァ~! 」
僕らは、4人掛けのテーブルに座った。
ワクワク顔の、ハンス。
ペーパーキャップを被った、若い男性店員が来て言った。
「 お味噌汁と漬物は、おかわり自由です! ご注文、どうぞ~! 」
ハンスが、びっくりして尋ねる。
「 何っ? タダかい? 」
「 そうっス! 」
「 何杯でも? 」
「 です! 」
「 凄いねっ! 」
「 でしょ? 」
「 ホントに? 」
「 ホントっス 」
「 凄いねっ! 」
「 ・・・・・ 」
早よ注文せえ、という表情の店員。
僕は、香住と目を合わせ、苦笑いした。
「 お待たせしました! 並2つと、特盛り1つね!」
早っ・・!
あっという間に、注文したものが運ばれて来た。
早速、食べ始める、ハンス。 天使のクセに、器用に箸を使う。 僕らも、食べ始めた。
「 うま、うまっ・・ ウマイね、コレ! 」
飯粒を、ほっぺたに付けたハンスが言った。
「 そんなに、がっついて食うなよ。 及川みたいじゃん、お前。 ・・そう言えば、及川ンとこは、どうしたんだ? 台本合わせが、あったんじゃないのか? 」
僕が聞くと、味噌汁をすすりながら、ハンスは答えた。
「 ナンか・・ 市川ってヤツが、バーベキューしたいとか言い始めて・・ ズゾゾ~~っ 世俗研究部とか言う連中の部室に行って、宴会を始めてさ。 ズゾっ、ズゾゾっ ・・その後は、ドンチャン騒ぎになってる 」
・・・ナンじゃ、そら。
あの、味噌煮込みを食っていた連中のトコだな? 相変わらず、ワケ分からん事をしとるな。 あと、味噌汁をすすりながら喋るな。
「 サエコ君は、どうしてる? 」
漬物をポリポリかじり、僕は聞いた。
「 まだ、寝てたけど? 」
・・・永遠の眠りについた方が、良いかもしれん。 将来に渡って日本の総生産に寄与する、と言う感じが、全くせんわ・・・
香住も、漬物を摘み、ポリポリと小気味良い音を出しながら食べる。 それを見たハンスが尋ねる。
「 ナニ? それ 」
「 たくあんよ? ダイコンのお漬物。 日本の味ね 」
「 1個、くれ! 」
「 どうぞ 」
たくあんの乗った小鉢を、ハンスに渡す。 全部、箸で掴み、イッキに口の中に入れる、ハンス。
・・・遠慮、ちゅうモンを知らんのか、お前は。 ドコが、1個なんだ? 1皿じゃねえか。
「 ほう、ほう・・ うむ、ウマイな・・・! メシと、絶妙に合うぜ 」
バリボリと、たくあんを食べるハンス。
・・・僕と香住は、目を疑った。
ナンと・・ ハンスが、縮んで行く・・!
どっかの、ネット小説で読んだぞ? こう言う展開・・・!
「 ・・・・・ 」
あっという間に、小学校 低学年くらいの大きさになったハンス。 ダブダブに、洋服を着ている感じだ。
「 お前・・! 縮んでるぞ、おいっ・・! 」
別段、驚きもせず、ハンスが言った。
「 ありゃ? 縮んじまったか。 ・・うん、ウマイわ、コレ。 おかわりっ! 」
アホウっ! ノンキに、おかわりなんぞしてる場合か! 誰かに見られたらどうすんだ・・・!
僕は小声で、ハンスに言った。
「 ・・早よ戻れ、コラ! 見つかったら・・ 」
ハンスが、大声で店員を呼んだ。
「 お兄さん、漬物、お代わりっ! 」
「 呼ぶな、てめえっ・・! ヒトの話しを、聞けっちゅうに・・! 」
「 はいい~! 漬物、お代わりね! 」
早速、店員が、たくあんを小鉢に乗せ、持って来た。
「 ・・あ、ああ・・ そ・・ ソコに置いといて。 有難う 」
とりあえず、答える僕。
店員は、一度、チラッとハンスを見たが、厨房に戻り始めた。だが、大げさに、ずささっ、と振り向くと、ハンスを凝視する。
・・・ハンスは、更に縮まり、幼稚園児くらいになっていた。
僕は、慌てて繕った。
「 あ、このヒト、外人の芸人さんでね・・! 体の関節ハズして、小さくなれるんですよ。 スゴイでしょ? イリュージョン役者なんですよ? はははっ・・! 」
ハンスが言った。
「 こんにちは! サミュエル・ハンス・クリューゲル・ハインリッヒ・ルフトハンザ・ジャン・フレデリック・ヒュッテル・ウィリアム・フロイツバーグ・フランシスコ・デ・ポンヌ・シュライバーⅢ世です。 混血のクォ-ターで、母親は、アイルランドとドイツのハーフ、父親は、コスタリカとキューバのハーフで、お爺さんは、フランス人。 ちなみに、母方のお爺さんは、インディアンで、お婆さんはエスキモーです。 国籍は、アメリカです 」
・・・やめい。
ぽか~んとした顔の、店員。 目は点になっている。
「 ・・は・・ はあ・・・ そうっスか・・・ す・・ スゴイですね、名前も。 ははは・・・! 」
何度も、こちらを振り返りながら、厨房へ戻る店員。
カウンターの中で、ナニやら、店長とヒソヒソと話をしていたが、やがて店長が色紙を持ってやって来ると、言った。
「 ・・あの~、すんません。 サイン、頂けますか? 」
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