第三関門 構成力
第二関門をクリアすれば執筆がはかどるか。その答えは半分イエスであり、ノーでもある。
自分の語りたいことを書いているときは至福だ。
一つの文章を書くことができるようになったことで得る満足感は、多少の不具合で消えるものではない。第三関門である構成力にぶち当たるまでは。
「つまんないっ!」
「魅力的な作品とは言えませんね。ボツです!」
「二番煎じみたいでなんだかなぁ」
脳内にすまうアシスタント達が苦言をのたまってくると、楽観的だった作者はさすがに焦り出す。
「あわわ。どうか怒らないでチャンスをください!」
いそいそとノートパソコンを取り出した。視点を変えて書き進め、括弧を駆使して心情描写を増やした。回想シーンや会話など試行錯誤を繰り返した。だが、そうした取り組みをすればするほど、面白い話がほど遠くなる。
入力と削除を幾度となく経験してようやく構成力を得るに至ったが、本質を知れば短期間に修得することは可能だったかもしれない。初心者のころにしでかす失敗を知っておけば済んだ話だった。
簡単なことだ。
起床して、ご飯を食べて、身支度をして家を出る。そんな一連の動作を全て記録しなくても物語は成立するのだ。
面白いと感じる分かれ道は、余計なものを判別して捨てる勇気にある。だが、削りすぎれば作者と読者の解釈が正反対なものになりかねない。そのため、私は伝えたいことの八割を書くようにしている。あとは読み手が想像できるよう、登場人物の仕草や言い回しで性格をそれとなく伝えればいい。
情報を詰め込めば面白い作品になるという思いこみを捨てたことで、良作と感じるメカニズムを少しだけ理解できるようになった。
話に合った順番で情報を明かすことで、思いがけない展開が生まれる。その意外性が大きければ大きいほど、感動の幅が広がっていくのだろう。
基本的なルールの紹介はここまで。作者の個性と場合によっては次のようなルールを守る必要性がないからだ。
結びに倒置法を多用しない。
同じ言い回しを使いすぎない。
起承転結または序破急の配分は均等にしない。
展開ごとに視点を変える方法を使うのは、主役級または脇役の二人まで。
まだまだ書き足りないほど制約は多い。
だからこそ、自分はどのルールを守ればいいのか迷いが生じる。
首をもたげる不安によって、最初は思うような作品ができないかもしれない。それでも辛抱強く書き続けていれば、どの作品にはどの長さが合うのか分かるようになる。書きたいものに近付く嬉しさに、心が躍るようになる。
ぴたりとピースが嵌れば恐れるものはない。最終関門は小説の顔となるタイトルだ。
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