第二関門 ネタの選択

 モノクロの世界に色がもたらされて輝き始める。その感動を味わうことができることが創作の楽しさだ。物語を紡ぐことは、心を鮮やかに染め上げる。


 話の方向性が定まり、登場人物のイメージがある程度固まったときに起こる問題は何か。それはネタの選択だ。


 例として西洋ファンタジーの場面を挙げる。



 王は勇者の肩に軽く剣を当てた。約束された英雄の剣が譲渡されようとする光景に、二人を取り巻く人々は歓喜の声を上げる。

「勇者よ。そなたに聖剣を授けよう」

 誰もが、勇者は剣を受け取るものだと思っていた。だからこそ、勇者が手にしたものを見て驚愕した。

「よっしゃあ! 政権をもらったぞ!」

 王冠と笏を高々と手にし、勇者は満面の笑みを浮かべていた。



 勇者の間抜けさを印象付けるエピソードだ。この後、彼が政権を手にすることができたのか気になるところではある。

 だが、このネタを膨らませて長編として構築することは骨が折れる。


 奇抜なアイデアに魅了されることは危険だ。見切り発車をして自分の首を絞めかねない。また、書けなくなったときのダメージが大きすぎる。ノリで書いた結果、二万字を越える全文を消去することは心身に負荷を掛けてしまう。


 手っ取り早い方法は、日常で得た体験を元にネタを収集することだ。

 起こりそうな出来事を連想していき、起こしたい出来事や起きてほしいことに発想を飛ばす。


 勇気があれば告白できるのに。

 今この瞬間は、近くて遠いところで見ていたい。

 遅刻しそうなとき、靴に生えた羽根で飛ぶことができたら。

 など、など。


 小説の中であれば、叶わない願いや現実で遭遇したくない事件を可能にすることができる。

 だからこそ、ぶっとび過ぎずありきたり過ぎないネタを選ぼう。

 小説の中だけでも夢やスリルを味わうために。

 作者自身の物語になり、登場人物の個性を色褪せてしまわないために。

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