1章 託す願い

スタートラインに立つまで

 私が執筆の魅力に引き込まれたのは中学二年生の冬休みだった。裏紙に書き溜めたアイデアは、やがて十万字を超える長編小説に変貌を遂げた。


 受験勉強の休憩に書いていたため、中学卒業までに書き終えることはできなかった。高校の文芸部で部誌や県大会用の短編を書きながら、こつこつ書き続けた。小説家になりたい一心で。


 無実の罪で地下牢に入れられた少年が、脱獄して歪んだ国を直す。剣と仲間で危機を切り抜ける西洋ファンタジーが誕生した。


 県大会に落選し、初めて味わう挫折にあえぎながらも高校一年生の三月には完結できた。何度も加筆修正を重ねた小説を、とある文学賞に応募した。あのときの私は、いいものが書けたと自信を持っていた。


 だが、大きすぎる期待を乗せるにはあまりにも稚拙すぎた。そう素直に認めることができるまで、長い時間が掛かった。

 一次選考を突破できなかった理由が分からなかったとき、タイミング悪く天狗にさせる出来事が起きた。


 地方の地区大会に応募していた短編が優秀賞に輝いたのだ。最優秀賞を狙って挑んだ翌年の大会は入賞。脂が乗る二年生に混じっての入賞は、間違った自信をつけさせた。

 自分には才能がある。そう過信してしまった。


 部活を引退した後は、別の長編を文学賞に応募するために綿密な舞台設定を練り始めた。魔法学校に入学する少女の奮闘を、大学生になって書き始めた。

 その傍ら、小説投稿サイトに修正した処女作を連載していた。ファンタジー大賞でランキングが低いことに悩み、埋もれていくことを嘆いた。


 ライトノベルの文体と違うから読みにくいのだろうか。そんなスランプに陥りながら試行錯誤を繰り返した。恋愛小説とダンジョンものの連載を始めたり、流行の世界観を知るためにオンラインゲームをやってみたりした。

 それらの努力が報われることはなかった。もがけばもがくほど少ない閲覧数が空しくなり、ランキング上位作との差に打ちひしがれた。


 書きたいものを見失った自分は、大学三年生になる四月に思い切ってアカウントを消した。異世界転生、異世界召喚、悪役令嬢、乙女ゲームものが書けない自分でも楽しく過ごせる――そんな新天地を求めてウェブサイトをさまよい、カクヨムと出会った。


 初めて投稿したものは読者が好きそうなジャンルではなく、等身大の大学生の話だった。背伸びしない話を投稿して、私は一つの真理に気付いた。

 筆を折る覚悟だなんて意気込んでも、武器を持たない自分は空回りするだけだった。


 七年目にして私は悟った。


 今はまだ、プロにはなれない。だが、完全に諦めるつもりはない。

 アマチュアだからこそ自分だけの世界を丁寧に綴る。それが私の出した答えだ。


 これからも駄作を書き続けるだろう。閲覧数が伸びないことに悩む日々も終わらないかもしれない。それでも夢に近付くために歩み続ける。

 私が作った物語で誰かの人生を変えてみたい。そんなちっぽけな願いを現実にするために。

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