窓は静かに
羽間慧
はじめに
偶然の出会いを無下にしない
窓は静かに。
この言葉から、あなたは何を思い浮かべるだろうか。
詩的に見れば、窓は静かに歌い出すという表現になっても不思議ではない。では、窓は静かに開きゆくという表現はどうか。その場合、開けた人物または風の存在が浮かび上がってくる。
想像力があれば、いくつもの物語を生み出すことができる。そうして生み出されたものに正解はない。
私は短歌として命を込めた。
凍てついた無の空間に日は差して窓は静かに涙を流す
冷え切った部屋に朝日が一筋差し込む。描いたものは、そんな日常の一コマだった。
短歌を作ったきっかけは、とある講義の課題だった。俳句と短歌を作る講義で、初めは受講するつもりはなかった。それでも二年次に履修したのには訳がある。それは単位稼ぎという意欲に欠ける動機だった。
だが、私はあの講義を予想以上に楽しんだ。小説とは異なるものの、言葉を選ぶ奥深さに引き込まれた。余談だが、のちに「硝子にくるまれて」で「僕」が添削されたと回想した歌も、あのころできたものだ。
講義では作ったものを地方新聞の俳壇と歌壇に応募するため、受講者全員にはがきが配られた。私は祈るように三句と一首を綴り、結果的に件の短歌が載った。
もし、あの講義を履修しなければ、自分でひらめきを捨てるところだった。
小説を書きたいという意欲が少しでもあれば、小説のみ集中を向けるべきではないのだ。そのことを思い出せたメッセージとして、私はこのエッセイの題名に謎めいた言葉を刻んだ。
新聞記事、美術館のポスター、美味しいご飯。どんな些細なことでもいい。アンテナを張り巡らせる中で、意外なアイデアが生まれることがある。
いつでも始められる手軽さが執筆の長所だろう。厄介なことは楽しさに魅せられたら最後、やめることは難しいということだ。
小説を書く。その行為は日常の出来事を拾い集めることで完成する、奇蹟の連続なのだから。
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