02 出会い
「……セバス。どう言うことだ…?」
「はい、セオ様。今回の勇者は" 逃亡 "したようですね」
「足跡を追跡しろ。必ず見つけ出して、殺せ」
「承知しました」
足下にある勇者の痕跡を辿るようにしてセバスは消えた。残されたセオはセバスの消えた方と逆へ進む。きっと今日の夜にはセバスが勇者の首を携えて帰ってくるであろう。セオは沸き上がる怒りを押さえながら、気晴らしに散歩をする。
「ご…めんなさい、今すぐに、っ!」
「このグズが!てめぇは何一つちゃんと出来ねぇな!ちゃんと拾っておけよ、後で確認するからな!」
水に何かが落ちる音と共に、男と女の罵声と弱々しい声が聞こえる。
─ この先は川だったか
進むに連れて、一人の気配が遠退いていくのを感じた。だが、もう一人は今もまだその場に居座っているようで、離れる気配がない。遠退く気配が完全になくなったのを見計らって、セオは木々を抜けて川岸へと出る。上流から何か流れてきて、それを手に取ると衣類のようであった。拾って進むと、川の真ん中に立つ少女が目にはいる。
くすんだ白いワンピースのようなものを纏ったそれには、透き通るほどの白い手と足がのびる。全身を濡らしたようで、服の裾を絞ると太腿の際どいところまで外気にさらされる。金糸の様な髪は濡れて輝き、それはまるでパイライトのようであった。
「…誰、ですか…?」
静まる空間に、小鳥が囀ずる時のようなソプラノボイスが静かに響く。顔を上げ水の滴る前髪から見える驚き見開いた白藍の瞳は、無言の相手を次は疑うように影をのせて紺碧へと変わる。
「あの……、」
「ま、待て、俺は怪しい者ではない。ただの通りすがりだ、気にするな」
慌てて警戒を解くように言った自分に少し驚きながらも、軽く微笑んで近付いた。
「全身が濡れているようだが、大丈夫か?これ、流れていたぞ」
「いつもの事ですから。…でもありがとうございます、洗濯物も拾ってくださって」
光に照らされ、微笑んだ少女に息を飲む。言葉がうまく出ずに、少し間をおいて言った。
「…これを着ろ、そんな薄着では風邪を引くぞ。またな」
自分の羽織っていた漆黒のローブを少女の肩にかけて、答えも聞かずに踵を返して森へと戻る。
「大丈夫っ……あれ?」
ローブへ目をやり顔をあげると、その男性はおらずに残るのは肩にかかった高級そうな生地のローブだけであった。
─それから魔王城にて
「セオ様、おかえりなさいませ。何やら急いでおられる様ですが…」
勢いよく扉を開けて戻ってきたセオにセバスは声をかける。それに全く答えず一目散に自室のベッドへと倒れ込んだセオを不安気に見つめた。
「セバス、悪いが後にしてくれ。…まるで、毒気にあてられたようだ…」
そう言って枕に顔を埋める" 魔王 "を見て、セバスは緊急警戒特例を発令させるのであった。奇襲を食らったように慌てふためくセバス達は、セオがただ照れているのを知らない。今までに感じたことのないほどに高鳴る鼓動。息苦しいようで、息ができないわけではない。次に会うのが楽しみで仕方のないような、まるで子供の様な。どうしてもちらつく、最後の濡れてた髪の下に微笑んだ顔。
セオは火照る頬を隠すようにして、目を閉じる。もし明日もこのような感情が続くのであれば、早急に対処せねばならない。
「どうしたと言うんだ、俺は…」
セオは無理矢理に目を閉じた。
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