転属させられた世界は魔族が"絶滅"してました ※旧題~勇者が来なくて暇だから、ちょっと出かけます。魔王より

芦速公太郎

奴隷少女と絶滅魔族

01 創造神 グノシス

「セオよ…わしは本当にガッカリじゃよ」


階段の上にある玉座で自身の髭を撫でながら、呆れたように老人は言った。目線の先には二人の従者に体を押さえられている男〝 セオ 〟 。


「…はいはい、すんませんでした」


「貴様っ!" 創造神グノシス様 "になんて口の聞き方だ!」


気怠そうに言ったセオを、従者は今までより強い力で押さえ付ける。が、全く動じないセオは未だ玉座を睨み付けるように見ていた。


話しは一時間程前に遡る。ここは魔界の神殿" 玉座の間 "。両側には太い柱が並んでいて、赤い絨毯が真っ直ぐに広がっている。急に呼び出されたセオはその上を歩かされ、階段の手前で押さえつけられた。

しかし、理由は明白である。同じ要件で過去に二度呼び出されているので、焦りや恐怖といった感情はなかった。逆にまた、長い説教が始まると思うと憂鬱で自然に溜め息が漏れる。そんなことを思っていれば、創造神グノシスが遅れて現れ、今に至る。


「また人間を滅ぼしたようだな、セオ。前にも言ったであろう、世界には" お決まりごとセオリー " があることを。忘れたのか」


「知ってますって。勇者に魔王が殺られるのが物語の" 終幕セオリー "なんでしょ。はぁ……めんどくさ」


その言葉に反応して従者が力を入れるも、グノシスが制した。


「よい。ではセオよ、何故人類を滅ぼすのじゃ。わしにはそれが理解できん」


「……なんだって…?」


その一言に身体は小刻みに震えて、腹の底から沸くように怒りが込み上げる。そして堰を切ったように溢れだし、従者を吹き飛ばして立ち上がり、叫ぶように言った。


「なんだと、くそジジイ!お前がランクの低いワールド C世界にばっかり飛ばす配属から、俺は何百年も死ねず負けずにこんなことになってんだろが!」


「…それは、今上位ランクワールド AAの世界が空いておらぬからと何度も…」


「じゃあ滅ぼして文句言うんじゃねぇ!…あんたも見たんだろう。最初の勇者は毒状態で、目の前まで来て回復薬切らして死んだ。次の勇者は城の手前で瘴気にあてられて耐えきれずに死んだ……300年待って最後はどうだった?」


爪が食い込むほどに握った拳は震えて、セオは奥歯を噛み締めた。そして、


「…魔族の森で城にすら着かずに死んだ!死因は毒死、しかも生えてたキノコ食ってな!普通気色悪い色のキノコなんて食わねぇだろ!?アイツらそれを…しかもビュッフェタイプで食いやがって!何洒落てんだよ!魔王討伐直前だぞ、遊びじゃないんだぞ!?そら、あんだけ食えばパーティー全滅だわな!……俺にこれ以上どうしろってんだ、俺のレベルに合ってないから、こっちは死ねないんだよ。どうせ俺に勝てないんだ、だからそんな無意味な世界なら俺がぶっ壊してやったまでだ!」


声を荒げて肩で息をするセオを、答えの出ない創造神グノシスは静かに見つめる。そして、暫しの沈黙の後に言った。


「すまんな…。でもやはり今のところは低ランクの世界ワールド Cしか空いておらぬ。こればっかりは、わしにもどうもできぬ。悪いがあと1000、2000年待ってくれんか。本当にすまんのぅ」


そう言うとセオの返事を待たずに新たな世界へと飛ばす。創造神グノシスが前に出した人差し指を下げると、セオの居る場所にぽっかりと穴が開いた。そして、瞬く間に穴に吸い込まれて神殿に響いたセオの断末魔の様な叫びも消える。静かになった空間に創造神グノシスの深い溜め息がひとつ。玉座に仰け反るように座り崩した創造神グノシスは、疲れた顔を天井へと向けた。


「……早急に壊れた世界を創り治さねばな…。次は何年もつのやら、」


そう言って落ち着かせるように何度か髭を撫で下ろすのであった。

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