<part:No.03 Title:peccatum originale>
第34話
嫌な夢を見た。気がした。
夢というのは記憶されているかされていないかで考えると、記憶されているそうなのだが、それを思い出すのは難しいと言われている。もし記憶しているならば、日記につけないほうがいい。精神が狂ってしまうから、と言われている。いわゆる夢日記というやつだが、それは、記憶の整理が常となっている夢の世界を現実の世界と混同することで起きるものであり、とどのつまり、そういうことが起こるから、夢日記をつけないほうがいいと言われているのだ。
「……今日も、捜査に入らないとね」
シャワーを浴びながら、今日の予定を立てる。今日もフクシマに居る予定だ。フクシマという場所をいたく気に入ったからだとかそういう訳ではなく、フクシマにもっと何か手がかりがあると踏んでいる為である。たとえそれが国際記憶機構の意思に反する行為だとしても、私はそれに従わなくてはならない。
それは、何の意思によるものなのだろうか?
答えは、紛れもなく、自分の意思によるものだ、と宣言出来る。
私は、私のために、私が生きていくために、行動する。その意思は誰にも囚われるものではない。
「さあ、行動を開始しましょうか」
そう言って、私は自らの気持ちを奮い立たせた。
今日こそ何か良い情報が見つかれば良いのだが。
◇◇◇
とは言った物の。
フクシマの道並みは何も変わらない。数十年前に地震が起きたなんてことを忘れさせてしまう程だ。
「とはいえ、歩いただけで何かが見つかるなら苦労はしないのよね……」
だから、彼女は少しでも瑞浪あずさの情報を掴みたかった。可能であるならば、彼女の背後に存在する脳科学記憶定着組織ワーキンググループについても調査を進めておきたい、そう考えていた。
しかしながら、そう簡単にアイデアが浮かぶ訳もなければ情報が出てくる訳でもない。「このまま闇雲に突き進んでいっただけじゃ何の意味も無い、か……」
しかし、ヒントが0に近い状態で、どうすれば良いのか――。
「こうして、また、私を訪ねに来たという訳ですか」
「住良木アリスさん。こうしてまた時間を設けて貰えて、我々にとって大変有難いことです」
「……何を目的としているのでしょう? 私も時間が有り余っている訳ではない。ですから、簡潔に物事を述べて貰わないと困るのですよ」
「あなたは知っているはず。瑞浪あずさが今、どこに居るのかを。それをあなたの口から教えて貰いたい。ただそれだけで済む話なのです。ねえ、簡単でしょう?」
「ノー、と答えたら?」
「あなたと脳科学記憶定着組織ワーキンググループの関係性を洗い出し、逮捕します。そしてそこで何が何でも瑞浪あずさの情報を引き出す。警察の常套手段ですよ」
「亡霊」
「え?」
「瑞浪あずさの亡霊に取り憑かれているのは、きっと私たちだと思っていた。けれど、その様子だとそれは違う。あなたこそ、瑞浪あずさの亡霊に取り憑かれている存在なのかもしれない」
「瑞浪あずさは生きているはずよ。それこそ、名古屋大学の教授が語っていた事実なのだから」
「……言わせて貰うと、私たちも彼女が存命かどうかはっきりと見えてこない、というのが現状なのよ」
「…………何ですって?」
「瑞浪あずさの代行者からの発言が、我々脳科学記憶定着組織ワーキンググループに提供される。そしてワーキンググループで得た情報も代行者に提供することになっている。ここでおかしなことに気づかないかしら? 瑞浪あずささえ生きているならば、その代行者の存在など必要ないということに」
「瑞浪あずさは、極端に人との交流を嫌っていた節がある。もしかしたらそれが原因かもしれない……!」
「だとしても、それは異常だとは思わないかしら?」
「……異常。確かにそれは間違っていないと思う。けれど、瑞浪あずさの今までの動きを見ていれば、それは最早通常なことのように思えてくる。決して外に出ようとせず、駒とした人間によって行動を促進させていく。それは決して珍しいものじゃない。瑞浪あずさはそれを目指そうとしたのではないかしら?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます