第31話

 結局、フクシマでも彼女に会うことは出来なかった。

 それはどうしてなのだろうか? わざと彼女が私を遠ざけているようにしか思えない。

 いったい彼女は何がしたいのだろうか? 何かの時間稼ぎをしているのだろうか?

 答えはまったく見えてこない。寧ろ、五里霧中といった状態だ。

 実際問題、その答えが見えてくるのは当分先になるのだろう。きっと、そうなんだろう。

 答えは見えてこないのが当然だ、なんてこと確か誰かが言っていたような気がする。

 うーん、思い出せないな。誰だったか、至極身近な存在だと思ったのだけれど。


「……あ、」


 思い出した。誰がそれを言っていたのか。

 間違い無く、紛れもなく、十中八九、瑞浪あずさだ。

 彼女と語った僅かな時間、その僅かな間だったかもしれない、その時間で語られていた。

 私と彼女の会話の連綿とした繋がり。

 それはきっと答えが見えているようで、見えてこない、霧の中にあるものなのだろう。

 それは大嫌いなことなのかもしれない。それは大好きなことなのかもしれない。

 でも、いずれにせよ。

 私は瑞浪あずさを逮捕しなくてはならない。

 長年の友人である、秋葉めぐみを殺したのは紛れもなく彼女だ。

 国際記憶機構の人間には逮捕権が存在しない。だから、あくまでも私たちに出来るのは、身柄拘束が限界だ。それ以上のことは警察に任せることになる。だから私は、瑞浪あずさがどうしてそのようなことをしてしまったのかということについて知ることは出来ない。


「……あずさ」


 瑞浪あずさの名前を口にする。

 彼女が居る訳でも無し。

 彼女が傍で聞いている訳でも無し。

 けれど、何処かで彼女が聞いているようなそんな感じがして。


「信楽マキさん」


 また、声が聞こえた。

 いったい彼女は何処に居るというの。


「何処に居るの、あなたは、いったい!!」


 叫んでも、叫んでも、その声は虚空に響くばかり。

 彼女の行方をまた捜さなくてはならない。しかし、今日向かったあの場所はもう行かない方が良いだろう。収穫が得られない。

 時間が足りない、と私は思った。別に限られた時間の中で活動しなくてはならない、という訳ではない。けれど、時間を幾らかけても結果が得られないのは、それはそれで問題だ。いつまで経っても成果が得られない、というのは避けなくてはならない。

 だから、私は考える。

 瑞浪あずさは――絶対にこのフクシマに居る。

 それは私の空想にしか過ぎないのだけれど。

 でも、それは紛れもない勘なのだけれど。

 絶対に、確実に、彼女は居る。

 そう信じて疑わないのだった。


「明日からまた一から調査のし直しね……」


 背伸びをしながら、私が思っていると、スマートフォンがぶるぶると震動した。


「電話?」


 電話は、拝下堂マリアからの着信だった。


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