第28話
「巫山戯ないで……! あれでどれだけの人間が死んだと思っているの!?」
「死んだ人間には申し訳ないと思っているよ。我々の『研究』の踏み台になって貰ったのだから」
「あなた、さっきから何を言っているのか分かっているの!!」
「君こそ、私に何を言っているのか分かっているのかな? 瑞浪あずさを神とする行為は、間違い無いはずだし、これからきっとずっとそのムーブメントは広がっていくはずだ。その正体が瑞浪あずさであると気づくまでには時間がかかるはずだ。けれど、人間は恐怖からそれを崇敬し出すはずだよ。……ほら、現にこのような記事も上がっている」
スマートフォンを操作していた住良木はやがてある画面を私に見せてきた。
それは、世界的に有名なニュースサイトだった。
「……『世界的にミルクパズル症候群を発症させたテロ集団は、神の代行者だった?』……ですって」
「ほら。どうかしら。私の言った通りに物事が進んでいる。そしてそれはもう止めることは出来ない。……世界は、ミルクパズル症候群に恐怖していくことになる! BMIという安全装置から外れた人類の行く先には、いったい何があるのでしょうね!!」
「瑞浪あずさは何処に居る」
「さて、何処でしょうね。このフクシマに居ることは間違い無いけれど」
「何故そう言い切れる!?」
「だってついこないだここにやってきたから。そして、彼女はフクシマの生まれなのよ。知ってた?」
◇◇◇
あの頭のネジが数本ぶっ飛んでいる研究者と話しているとこちらも頭のネジがぶっ飛んでしまいそうだと思い、話を早々に切り上げた。
しかし、瑞浪あずさの情報はまったく得られなかった。
東京、名古屋、再び東京、シリコンバレー、三度東京、そしてここ。
瑞浪あずさの痕跡を追ってやってきて、ついにここまで追い詰めた。
けれど、彼女の痕跡はここで潰えてしまっている。いったい彼女は何処に消えてしまったというのか。
そんな訳で医療都市フクシマを歩いていたのだが――そこで、あるキリスト教の教会に目を向けた。
スタンドグラスが日差しに当たり、綺麗に輝いていた。
私はそれに目を奪われて、気づけば中に入っていた。
賛美歌がBGMとなって、教会は厳かな雰囲気に包まれていた。
中に入っていくと、二人の親子が十字架に向かって祈りを捧げていた。
賛美歌は未だ鳴り止まない。今もなお、教会に響き渡っている。
「……信楽マキさん」
声が聞こえた気がした。
振り返る。しかしそこには誰も居ない。
誰も居なかった。
「ようこそ、教会へ。どうかなさいましたか?」
同時に、前に立っていたシスターから声をかけられた。
シスターと会話するのは苦手だ。私がキリスト教が苦手だということ――とどのつまり、神を信じていないから――なのかもしれないけれど。とにかく適当に話を流そうと思っていたのだが、
「最近、祈りを捧げる人が増えてきました。私たちはBMIを埋め込んでいないのに、です。ミルクパズル症候群の恐怖は、BMIがあっても無くても変わらないのに。それを気づこうとしても、気づけないのですよね」
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