第27話

「その可能性は、捨てきれない」


 ばっさりと、あっさりと、切り捨てていく。

 研究者というのはこういうにんげんだということを思い出させてくれる。


「少なくとも、彼女は悪魔ですよ。一緒に居た我々が見てそう判断するのですから、当然でしょう。彼女は人間の死をなんとも思わない、悪魔みたいな存在なんですよ」

「人間をロボットのような存在にして、何か意味があるのでしょうか」

「意味? あるのかどうかすら分かりませんよ。いずれにせよ、私たちは彼女の考えた計画が素晴らしいものだと判断していたから研究を進めていただけに過ぎない。それを考えられ場、私たちだって悪魔と変わりないのかもしれませんがね……」


 悪魔と変わりない。

 その言葉の意味を深く噛みしめていた。

 確かにその言葉に偽りは無いのだから。

 その言葉に偽りも無ければ正しいことだけしか述べていないのだから。


「……私たちは間違っていることをしてしまいました。裁かれるべきでしょうか? でも、今行っていることは立派なことです。この原子力に侵されてしまった土地、フクシマを僅か数年で無力化してしまいましたよ」

「それについては立派なことだと思っています。ですが、ミルクパズル・プログラムの開発とこれは話が別です。私は、脳科学記憶定着組織ワーキンググループの全員を逮捕するまで動き続けるつもりですから。勿論、瑞浪あずさも含めて」

「だとしたら、急いだ方が良いのかもしれないわね?」

「何です、って?」

「ミルクパズル・プログラムは既に完成している。そのコードキーはあの子の手に渡っているわ。あとはあの子が起動するのを待つばかりなのだから」

「何ですって!? でも、未だミルクパズル・プログラムは起動していない。ということはつまり、」

「躊躇っている。彼女の何処かで、未だ躊躇している部分があるということになるわね。できる事ならさっさとやってもらって研究の成果を明らかにして欲しいものだけれど」

「でも研究の成果が明らかになっても、あなたがそれを自覚することはない。人間の意識は一つになってしまうのだから!」

「そう。人間の意識は一つになってしまう。さて、ではここで問題。意識が一つになるのなら、その意識は誰のものになる?」

「何を、言って……」

「答えは、誰のものにもなりゃしない。ごちゃ混ぜになってしまった意識は、誰のものにもならないの。不思議な物ね、人間の意識というのは」

「ミルクパズル・プログラムを使えば、少なくともBMIを使っている人間の意識は消失する」

「けれど、BMIの外に住まう人間も少なからず存在する。彼らは『救済』の対象にはならない」

「救済? ミルクパズル・プログラムで記憶を消去し意識を統一することの、何が救済だと言いたい訳?」

「救済だよ。それは紛れもない事実だ。我々は瑞浪あずさを神として一つの宗教を作りたかったのかもしれないがね」


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