第24話

「彼女が何を考えているのかは、我々にも分からなかった。だから、我々は気味悪がっていたのだよ。彼女の存在を。彼女がほんとうに必要なのか、という意味を。けれども、彼女が居なければ何も出来ないということは紛れもない真実だった。だからこそ、彼女を使うということが紛れもなく不本意ではないということははっきりと言わせて貰おう。我々大人の都合に彼女を合わせてしまったのかもしれない。今思えば、ほんとうに申し訳ないことをしてしまったのかもしれない……」

「なら、あなたがやったことを国際記憶機構の監査に流しなさい。それと、あなたが知っているならで構わないのだけれど」

「?」

「瑞浪あずさの場所は何処か教えなさい。先程瑞浪あずさから連絡があってね、ここを訪ねなさいという指示があったのよ。ということは、あなたが瑞浪あずさへ繋がる何かを知っている。いや、知らない訳が無い。教えなさい、瑞浪あずさは今、何処に居るの」

「私は知らない。ほんとうに、ほんとうに知らないんだ!」

「嘘よ!! 瑞浪あずさは、あなたを指名した。ということは、あなたと脳科学記憶定着組織ワーキンググループの繋がりを示唆しているはず!」

「脳科学記憶定着組織ワーキンググループ……ああ、懐かしい名前だ。だが、もうとっくに僕は辞めているよ。そのワーキンググループからは離れている。強いて言うなら、ワーキンググループが今も活動の拠点にしている場所を知っているぐらいだ」

「それはいったい何処なの!? 教えなさい!!」

「慌てることではない。……世界の医療都市として人気を博している、フクシマだ」

「フクシマ……どうしてあの都市に、脳科学記憶定着組織ワーキンググループが?」

「さあな。ただ、瑞浪あずさは孤児だと聞いたことがある。震災孤児、だそうだ」

「震災孤児?」


 フクシマと震災を繋ぐもの。それは二〇一一年に起きた、東日本大震災だろう。未だ記憶には新しいが、復興は完全に進んでおり、最早その面影を残していない。

 それと彼女にそんな関係性があったなんて、知らなかった。

 三橋教授の話は続く。


「きっと、君は知らなかったのだろうが……、彼女は震災孤児であることをかなり憂いていたよ。それをどう思っているかは別として、だがね」

「憂いていた……彼女が?」


 そんなこと、私と一緒に居たときは一言も話したことなんてなかったのに。


「……話したことがないというよりは、話す必要が無かったのではないかな?」

「話す必要が、無かった?」

「そう。話す必要が無かった。だから、彼女は自分が震災孤児であることを説明しようとはしなかった。けれども、我々には何故ミルクパズル・プログラムを開発しようとしているのかというところで、自ら語ってくれたよ。自分が震災孤児であり、震災の記憶を忘れ去りたいからこのプログラムを開発したのだ、と」


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