第21話
オレンジ社、記憶開発センター。
担当者との会話は英語だが、流暢な英語の会話でも問題無く進むのが、国際記憶機構に務めていて良かったと言える事象だった。
「脳科学記憶定着組織ワーキンググループ……? 確かに開発協力していた頃があったよ。だが、それがどうかしたかね?」
「どんなものを開発しましたか? 分かりますか?」
「……どんなもの、か。確かコンソールを開発したね。スマートフォン型のコンソール。通信も出来るし、インターネットへの接続も出来る。だから、普通のスマートフォンと言えばそれまでだけれど、そういうものを開発していたね」
「規模は? 大体どれくらい?」
「かなりの規模……とは言いがたいものだったと思うよ。五十台ぐらいだったかな。開発の規模は小さめだったよ」
「スマートフォンの開発をした、だけ?」
「しただけ、だね。ソフトウェアは元々用意されていたものを組み込んだだけだったけれど」
「プログラムを組み込んだ……それはペイタックス・ジャパンから用意されたもの?」
「良く知っているね。確かにその通りだよ。ペイタックス・ジャパンから提供されたデータをそのまま組み込んだ。だから僕はそれがどのようなプログラムかは把握していないよ。残念なことではあるけれどね」
「どうして中身を見ようとしなかったの?」
「見たら契約違反になってしまうからね。見てしまわないようにすることで必死だよ。僕だって知りたい情報は多いに越したことはないけれど」
◇◇◇
あまり話している意味は無いようだった。
オレンジ社の情報統制は完璧であり、つまり、情報を流出させることが難しいということだ。
ペイタックス・ジャパンとオレンジ社の繋がりは見えてきたが、それ以上の、その先の繋がりが見えてこない。
その先に何かあるかが見えてこない。
思い出せ、思い出せ。
瑞浪あずさは、いったい何を隠していた――?
そんなときだった。私のスマートフォンが震動したのは。
「こんな時に誰から電話?」
発信元を確認すると、非通知だった。
この時代に非通知とは珍しい。公衆電話からかけてきている、ということか?
本来なら無視してしまう電話だったが、何故かこのときは私の本心が出ろと言っていた。
「……もしもし」
BMI―Lightningケーブルを接続して、電話に出る。
「久しぶりね、信楽マキさん」
無表情のようで抑揚のないその声に、私は聞き覚えがあった。
「……瑞浪あずさ……!」
「どうしたの、私のことを探していたんじゃなくて?」
「あなた、いったい何をしでかしているのか分かっているの!?」
「知っているよ。大量の人が死んでしまったね。悲しいことだね。分かっているよ、それぐらいのことは」
「悲しいこと、ですって……! あなたがやっているということは分かっているの! 今、何処に居るの! 国際記憶機構の調査を受けなさい!!」
「国際記憶機構……。そうか、今あなたはそこに所属しているんだね。一番鬱陶しい名前の機関だよ。私にとっては、一番潰さなくてはならない名前の機関であることは間違い無い」
「潰さなくてはならない……! あなたはいったい何を考えて」
「東京大学の三橋ケイタ教授を訪ねなさい」
「な……、」
「そこに次のプロセスが残っている。大丈夫、『瑞浪あずさが言っていた』と言えば直ぐに話を通してくれるはずだから」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
通話は、一方的に切られた。
名古屋、東京、シリコンバレー、そして東京。
瑞浪あずさの幻影は、私たちを何処へ誘うつもりなのだろうか。
今のところ、その真実は、まったく私には見えてこなかった。
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