<Part:No.02 Title:Memory Working Group>

第19話

 結局、振り出しに戻ってしまった。ペイタックス・ジャパンが脳科学記憶定着組織ワーキンググループと提携していたのは昔の話で、今は関係を解消しているらしく、何も情報を仕入れていない、というのだ。

 仕方がないので、ペイタックス・ジャパン側の処理は遠藤ユリ監査官に任せることにした。だからといって立ち止まる訳には行かない。私は私の考えで行動を進めるのだ。ペイタックス・ジャパンが駄目なら、他の薬剤メーカーに情報を提供している可能性はないか?

 そんなことを考えていたら、着信が入った。BMI―Lightningケーブルを接続し、応答する。


「もしもし、どちら様ですか」

「ユリです。ペイタックス・ジャパンの幹部が吐きました」

「何を?」

「瑞浪あずさが居る場所です。場所はアメリカ、シリコンバレーだそうです。シリコンバレーに研究施設を設置しており、そこで開発を進めているのが最後だった、とのこと。現在は一方的に関係を解消されてしまったため、その施設が何に使われているのかは分からないそうです」

「そう。情報ありがとう。早速向かってみることにするね」

「ああ、そうだった! それと、私のお付きが出来なくなりますので、代わりの者を呼び出しました。何でもかんでも好きに使ってください!」


 そう言って、一方的に通話は切られた。


「信楽マキさんですね?」


 そう言ってきたのは、黒いスーツに身を包んだ男だった。白髪は後ろで纏められていて、清潔な風貌だと感じられる。

 しかし、私はこの人間が何者かはっきりとしない。いったい何者だというのか。


「自己紹介から始めましょうか。私は国際連合のアムス・リーデッドと言います」

「国連? いったい国連がどうして」

「国際記憶機構は国連の配下にあることはあなたもご存知でしょう。上がもうこれ以上、国際記憶機構の横暴には耐えられないと判断したのでしょうね」

「横暴、って……。こちらがやっていることは立派な捜査よ!?」

「重々承知しております。けれど、やはり、『面目』は立てておく必要がありますから」

「面目、ねえ。ただ手柄を奪い取られたくないだけではなくて」

「そうおっしゃられても仕方ないと思っています。ですが、事は一刻を争います。急いでミルクパズル症候群の大量発生を食い止めなくてはなりません」

「第二波が来ると、お考えなんですね?」

「そうでなければ、何が来るというのでしょうか? 敵グループは、ミルクパズル症候群の大量発生は自らが行ったことであると認めている。それだけではない。ミルクパズル症候群の罹患者が、記憶の定着に失敗して次々と死んでいる。秋葉めぐみさん……あなたの良く知る人物もです」

「めぐみが……死んだ、ですって?」


 それは予想していなかった。

 いや、予想できていたことじゃないか。

 少なくともペイタックス・ジャパンの幹部と会話していたときから、そのときが訪れるのではないか、ということについて。


「それにより、国連は危険レベルを引き上げました。バックアップを取っていないBMI所有者には速やかにBMIを経由してバックアップを取らせること。それ以外の人間には、対策のしようがありませんからどうしようもないのですが、相手がBMI接続者を狙っているなら、これが最善策としか言い様がありません」


 そう。

 BMIの浸透率は未だ百パーセントになっていない。主に高齢者や子供を中心にBMIの埋め込みが進んでおらず、それでも九十五パーセントの人間がBMI埋め込みに成功している。

 とどのつまり、七十六億人が被害者になる恐れがあるということだ。

 そこまですれば、もはや国家転覆どころの問題じゃない。世界のシステムそのものが変わってしまう、重大な事故となりかねない。


「でも、第二波は未だ出ていないんですよね?」

「ええ。出ていません。だから困っているんです。これから我々はどうすれば良いのか、」

「今ちょうど情報を掴みました。何処に向かうべきか、ということについて」

「何処へ向かうのですか。私も着いていきます。場所を教えてください」

「シリコンバレー」

「は?」

「シリコンバレーに彼女たちは研究施設を所有していた。つまり、シリコンバレーに行けば何か残っているかもしれない。だから、私は今からそこへ向かう。着いていくというのなら、あなたもシリコンバレーに向かう準備をなさい。私は待つのが嫌いな人間だから、そのつもりで」


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