第2話

 ブレイン・マシン・インターフェース。

 人間の脳に流れる電気信号を解析して外部媒体に流し込むための、特殊な様式のことを言う。

 私は、頭の後ろにある接続端子からケーブルを抜いて、首に接続されている蓋を閉めた。


「はい。これでバックアップは完了ですよ。お疲れ様でした」


 私、信楽マキは、今医師としてBMIを用いた記憶のバックアップを進めている。

 一日にバックアップをする人間の数は、日によって変わるけれど、二十人から三十人弱。

 これでも大きい病院では少ない方だと思う。

 大きい病院では百人を超えることも少なくないし、複数人の記憶科の医師が待機しているのだ。

 私は、この病院で唯一の記憶科の医師であり、記憶バックアップ技術を用いてバックアップすることが出来る唯一の人間である(記憶バックアップ技術を利用するには、免許が必要であり、その免許を取得するためには、取得率七・五パーセント程の高難易度の試験をクリアする必要がある)。


「ふう……今日はこれでお終いかしらね」


 時間を見ると、午後七時を回った辺り。

 明日は木曜日で、休診日となっている。私にとっては日曜日と木曜日の休みが数少ない休める時間であり、その時間を有意義に使っていこうと思っていたのだが――。

 ふと、白衣に入っているスマートフォンが震動する。


「ん? 何だろう、誰からかな。こんな時間に連絡なんて」


 見るとSNSからの通知だった。友人である秋葉めぐみからの連絡であった。

 秋葉めぐみは高校時代の友人であり、大学は一緒の大学に進まなかったものの、ずっと連絡を取り続けた数少ない友人であった。


「久しぶりに食事でもどう、か……」


 私は明日か日曜日なら空いているけれどどうかな、と言った。

 そして直ぐに返事が返ってくる。仕事が終わったのかな、そっちは。


「明日なら空いてるよ、か」


 私は、だったら明日、近所の駅で待ち合わせしようという旨の連絡をして、スマートフォンを白衣に仕舞った。

 なんやかんや、一年ぶりぐらいに会うことになる。新年会も忙しくて行けなかったし。

 だから、私は明日の食事がとても楽しみになってきていくのだった。



 ◇◇◇



「ねえ、信楽マキさん」


 その日の夜、私は夢を見た。

 高校時代の、仲が良い三人組での会話だ。

 信楽マキ、秋葉めぐみ、そして、瑞浪あずさ。その三人の会話は、いつも昼休みをメインにしていた。高校の屋上という誰もやってこない空間が、私たちにとってのパーソナルスペースだった。


「あなたは、記憶が消えてしまうことについて、どう思う?」

「記憶が消えるのは……嫌だよ。だからバックアップ技術が発達しているんじゃ無いの?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る