最近の下校中の美少女達はうるさすぎる

俺が通う高校"三場学園高等学校"は上履きというものが存在しない。

ローファーでそのまま教室に行くのだ。


上履きに履き替えるという動作がなくなり、俺は大万歳。遅刻しそうになっても一直線で行けるからな。


そんなことはさておき、俺は今二人の美少女と共に学校内を歩いている。


ははっ、それはどんなラブコメですか。教えて欲しいです。


「あれ?……あーごめん。ロッカーに教科書忘れちゃってたみたい。取りに行ってくるね」


紅が鞄を探りながらそう言ってきた。


教科書を持って帰るなんて優等生か。俺はいつもロッカーに置いたままだぞ。


「それだったら私も付いていきます」

「いや、それは悪いよ。それにさ、クマちゃんと二人でいれば少しは治るかもよ?」


悪いと思ってんなら俺を一人で帰らせろ。


そんな思いが届くはずなく、紅の「ダメ?」という上目遣い+持ち上げられたたわわによって平等院は俺と一緒に残ることになった。


胸ってすげー。


「なんで私がこんな人と……」


本を読みながら平等院がブツブツと俺に悪態をついている。

途中から文章に変わり、次第に無言になり静けさが戻ってくるようになった。


俺もラノベを読み、時間を潰していた。





「こらー!!アルー!!いつまで寝てるのー!!今日は一緒に遊ぶ約束でしょー!!」


まだ朝日が出ていない時間、微睡みの中にいた僕に目覚ましのアラームが鳴った。


「うんん………何だよもう…うるさいなぁ。…ふわぁ…」

「アルフェルト様。ご友人がお見えです」

「うん……知ってる……」


白と黒を基調とした服装の美女が僕に話しかけてきた。

彼女は僕のメイド。バルサフォッゼゲートムランという名前だ。名字は含まれていない。

みんなは略してバルサって呼んでる。


黒い髪を長くポニーテールにして結んだバルサは可愛いというよりは綺麗、美しいって言った方が似合っている。


黒縁の細い眼鏡が真面目な雰囲気を醸し出しているけれど……。


「さっさっと起きてくださいアルフェルト様。私の休み時間がなくなります。ああ、ほら、アルフェルト様と話していたせいで二十秒も時間がなくなってしまっています。これは後で休憩時間を長くしてもらわなければいけませんね」


実を言うと結構めんどくさがり屋だったりする。

たった二十秒は彼女にとってそれはとてもとても長いらしい。


「わかったよ……行ってくるよ…」

「そうですか。それでは私はこれで」


そう言うとバルサは一瞬でいなくなってしまった。


なんだよあれ。僕でもわからなかったぞ。


「アーーールーーー!!遅いーー!!」


さっきから叫んでいる子はアリス。僕が住んでいる村の一番の美少女だ。金髪の気が強い女の子で、何かと僕に突っかかってくる。


「はいはーい。今行くよー」


パジャマから外に出る服に着替えて玄関に行くとアリスの声で目が覚めたのか父さんと母さんがすでに起きていた。


「いってらっしゃいアル」

「そろそろ手を出してもいいーーー痛ぁ!!」


父さんが何か言おうとしていたけれど、母さんに頭を叩かれて止められていた。


「なんでもないわよアル」

「そう?じゃあ行って来ま」

「ダメ!!お兄ちゃんとは私が遊ぶのー!!」


部屋の奥から出て来たのは妹のルミア。青い髪を短く揃えた十才のルミアはそれはとてもとても可愛らしい。

青い大きな目が僕をジッと見つめていた。


「コラ!!アル!遅いわよ!!」


玄関を無理矢理開けて入ってきたアリス。


人の家に無断で入ってはいけないんだよ?それに僕の家男爵の貴族だよ?


入ってきたアリスにルミアが目を向けるとその目は絶対零度に勝るとも劣らない目になっていた。


「ああ、アリスさん、お久しぶりです。お兄ちゃんは私が先に遊ぶ約束をしていたので雌猫は帰ってください」

「何を言っているの?あなたが仮に遊ぶ約束をしていたとしてもそんなものは関係ないわ。あなたの方こそこの家の中でおねんねしてればいいわ、ル・ミ・ア・ちゃ・ん?」

「なるほど。殺されたいようですね。わかりました。【氷魔法 絶対零度の支配者コキュートス】」

「無駄よ。【炎魔法 照り輝く光の十字架ラー】」


アリスとルミアは天才だ。

だから上級魔法もこの歳で難なく使えてしまう。


ルミアの周りが白く凍り始め、我が家は凍りつき始めているのに対し、アリスの前横後ろに火で出来た赤い十字架が現れる。

家の中で魔法を使われると家が壊れかねないのですぐに止める。


「アリス、ルミア。二人一緒に遊んであげるから魔法は止めなさい」


お説教するように言うと渋々やめてくれた。納得してなさそうだけど。


「じゃあ今日はあの森の奥まで行ってみましょ!」


アリスが言うあの森とはこの村の近くにあるパッパラパッパラスゲーゾコノ森という変な名前の森だ。ギャグなんじゃないかといっつも思ってる。


由来は森の中に入った狩人達が遭難した時に馬がかけるような音と、「この森すげー」という声が聞こえその方向に歩いて行ったら街までついたという噂があるからだ。


「ああ、あの……バイオリン森?でしたっけ?」

「パッパラパッパラスゲーゾコノ森ね」


ルミアが間違えていたので訂正すると「さすがお兄様!」と、何処かで聞いたことがあるような喜び方で僕を称賛した。どこで聞いたんだっけ?


それから僕たちは森の中に入っていき、そこでずっと遊んでいた。

日が暮れてそろそろ帰る頃になった時アリスが提案を出した。


「ねぇ、もっと奥に行ってみない?」

「それはダメだよ。魔物が出るって言われてるでしょ?」

「大丈夫だって。私たちは上級魔法が使えるからどんな魔物でもイチコロよ!さ!行きましょ!」


僕の制止も聞かずどんどん先に行くアリス。


いくら上級魔法が使えると言っても元賢者の僕からしたらお子ちゃまもお子ちゃま。オタマジャクシにすらならない蛙のようだ。


「ダメだって。アリス」

「ギャルゥゥゥゥゥ!!」


僕は止めたがそれは遅く魔物が出てきてしまった。


「ド、ドラゴン!!逃げようお兄ちゃん!」

「いやぁぁぁぁぁ!!」


ルミアは僕の裾を掴みながら言うが足が震えていて動けない。あとアンモニアの臭いがする。


アリスは恐怖で固まっている。


「………はぁ、仕方ない」


ドラゴンは一般的にSランク冒険者が倒せるレベルの魔物だ。ただそれは転生した後の話であって、転生する前はこのドラゴンなどネギどころかスモークサーモンを持ったカモだ。

肉は美味しい、羽は装飾品になって、爪はーーーというふうに全てに無駄がなく高値で取引されるからだ。


僕はアリスの前に滑り込むように入り、魔法を発動させる。


「ほんと、こういうのはこれっきりにしてね。【神聖魔法 女神の涙オアシス】」


魔法が発動するとドラゴンはパタッと倒れてしまった。


「え………」


アリスとルミアは何が起こったか理解できないようでまだ固まってる。


「ふぅ………大丈夫?」

「え?あ、うん」


僕が手をさしのばすとそれを受け取り立ち上がった。


「お兄ちゃん!!すごかったね!あのドラゴンの顔!びっくりしてたよ!」

「そうね!あの顔を思い出すと笑ってしまうわ!!」

「えーと?急にどうしたの?アリス?ルミア?」

「最近調子に乗ってるからだよね!!あの胸しか取り柄のない脳筋が!!」

「自業自得よ!あんなの」

「私写真撮ったから後でラインに載せるね」

「本当?みんなが笑う顔が思い浮かぶわー」

「ノートもぎったぎったにしてやったし」

「教科書も破いたしね」

「次は何にすーーー」

「そうーーー」

「じゃーーー」



はっ!途中から二次元とリアルが混ざってしまった。


リアルの声がそのままセリフに変わっていた。


全然気づかなかった……。


それにしても何だったんださっきの会話は?女子二人が自業自得やらノートを破いたやら何やら言ってたけどいじめかな?


まぁ俺には関係なし。続きを読むか。


「ごめーん遅れちゃって」


と、思いきや紅が帰って来てしまい、ラノベは読めなかった。


「………どうしたんですか?紅さん」


平等院が紅の服を見てそう聞く。


俺も同じことを思って、紅の服をよく見る。


紅は元々制服のブレザーを着ていたが今はブレザーを脱ぎ、白いワイシャツのみとなっていて手のあたりが少し濡れていた。ちょっとエロい。


わかるかな。女子がいつもと違う格好をすると目がそっちに行くよね。


「いや〜実はトイレでさ、水道の蛇口を間違えて捻っちゃって水かかかっちゃったんだ」


手に持っていた茶色いブレザーを見せびらかしながらそう言った。


「紅さん、女子がトイレなんて言ってはいけません」


そっちか。女子でもトイレっていうと思いますけどね。


「いいじゃんいいじゃん。ほら、早く行こ」


急かすように俺と平等院の背中を押す紅。


ちょっと!男子は女子に触れるだけでも興奮するからやめてほしいんですけど……。


俺らは校門を出てバスに乗る。

その間はずっと紅が話しており、俺は相槌を打つだけ。

平等院は何が面白いのかずっと笑っていた。


そんなことより周りの視線が辛い。

なんであんな奴が……とか、誰あのクマがひどい男とか、俺に対する視線がね?もうダメなんだよ。


「ねぇねぇ!クマちゃんはどう思う?」

「え?何?全然聞いてなかった」

「だから!私の親がいっつも勉強しなさい勉強しなさいって言ってくるの。どう思う?」


親……か。


俺の両親はすでに死んでいる。車で外出した際の交通事故。運良く後ろの座席に座っていた俺と照葉は傷一つなく生きていたが、両親は潰れてスクラップ状態。あの日を思い出すと少し気持ち悪くなる。


『小二から塾に行ってるから高いレベルの高校に入れようかしら』


『大丈夫大丈夫。お父さんはいつでも渡入の味方だからな』


『あなたは頑張れば出来る子だから』


両親といって思い出した言葉の数々。


とは言っても別に俺は両親が死んだことに悲しいとか寂しとかの気持ちはなかった。


何故だって?それは簡単。俺がーーー。


「ーーーどうしたの?」


ここで俺は返事を返していないことに気づいた。


「ん?いや別に。いい両親なんじゃない?」

「だよね〜」


そう言うと紅はまた大きな声で平等院に話し、俺とも話していった。


………うるさいなぁ。


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