最近の本屋は出会いが少なすぎる


俺はライトノベルが好きだ。


毎日毎日新しい本を買って読むくらいには好きだ。


ラブコメ、ハイファンタジー、ローファンタジー等色々あるが、俺はどれでも読む。




俺はいま本屋に来ている。ペテルギウス書房というところだ。


そこで新作のラノベを買おうとしている。


名は"勇者パーティーを追放された回復術師が無双賢者になったわけ"だ。


うん。長い。タイトルが長い。


しかし!!WEB版で見たあの爽快感と緊張感などが良かった。


間違えた。それ良かった。

内容?鼻で笑うレベルです。



別に俺はそういうのがダメと言っているわけではない。むしろそういうのであってほしいと願っている。


同じジャンルのもので、主人公がどういう風に生きていくのかが見たいのだ。


だからぶっちゃけラノベだったらなんでもいいです。


そんなことを考えながら新作を見つけると、俺はそれに手を伸ばし、取ろうとする。


すると……。


「あ、すみません」

「あ、いえ、こちらこそ」


運命的な出会いがくる……。


「あ、これ、どうぞ」

「え、…うわっ……いえ、構いません…」


わけなかった。


本を取ろうしたら手が丁度重なり合って、譲ったら引かれた。これが先ほどの状況だ。


うわっ、て言われた。うわっ、て。


俺の容姿はボサボサの黒い髪にクマが酷い目。よく見なくてもわかる根暗第一号だ。


「はぁーー。……彼女欲しいわー」


現在高校一年生の男子の願いだ。


「さっきの女の子可愛かったな……」


制服から察するに同じ高校の子だった。

茶髪と赤毛が混じった、活発そうな女の子だった。胸も大きい。


「…………良き……」


俺が少し顔を赤らめていたのは間違いだ。



「たでーま」


俺は一人暮らしではない。いや当たり前だけど。

ただ、同年代とは違い、親がいない。元からではなく、事故だ。


「お帰りー」


リビングの奥からのんびりとした声が聞こえてくる。


スーパーの袋を持ちながらリビングに行くとそこには青いタンクトップを着た黒髪の美女がいた。


鋭い目に艶のある濡れた髪がうなじを通り、くびれ辺りまで伸び、ペッタリとひっついている。


強調された胸に目がいってしまいそうになるがいくらなんでも同じ親の腹から出てきた女性にそんな目を向けるわけがない。


この女性の名前は御手洗照葉みたらいてるは。俺のだ。


妹かな?って思ったやつ。先生怒らないから正直に手を挙げなさい。


残念ながら俺はラブコメ主人公ではないので妹がいるという設定はない。


「お腹すいたー」

「んー」


俺の姉はーー照葉は家ではいつもグータラしてる。今もソファーで寝っ転がってビール飲んでる。

てゆーか風呂上がりにビールは良くないって聞いたぞ。


今の時刻は六時三十分。

夕食を作ったら七時を超えるだろう時間だった。


今日は日曜日。明日から学校だ。 そう考えるとどうしても鬱になる。


「………はぁ…いてっ!…」


ため息をしたら間違えて包丁で自分の手を切っちまった。


「あー、手切ったのー?血は入れないでねー」


俺の心配はしてくれないんですね。知ってました。


絆創膏を貼り、また調理を開始する。


俺と照葉は七つ歳が離れている。

照葉は社会人。高卒で働いて俺を養ってくれている。頭が上がらない。


照葉がお金を稼いで、俺が家事をする。夫婦みたいな関係だ。逆だけど。


でもそのおかげというか何というか、家事検定二級レベルぐらいには上手くなった気がする。そんな検定なんかないけど。

ちなみに二級はプロの一個手前レベル。俺ってすげぇ。



洗ったジャガイモの皮をパパッと剥いたら、四等分に切って、水の入ったボウルの中に入れる。


玉ねぎ、肉、人参を切り、水を切ったジャガイモを鍋の中に入れ、煮込む。

いい感じまで煮込めたら次はルーを入れる。

カレー、ではなくシチューだ。


ルーを入れたら沸騰するまで混ぜ、ある程度まで水を飛ばす。そうするととろみのある美味しいシチューが完成する。


どや。


「照葉。できた」

「あ?」


言ってしまってから気づいた。


ヤベェ、呼び捨てしちまった。


照葉は呼び捨てにするとキレる。


ならばどうするか。簡単だ。


「い、いや。間違えた。"照ちゃん"。できたよ」

「よろしい」


ちゃん付けすればいいのだ。

結構前にちゃん付けしろと言われて、したがってしまった過去の自分を殴りたい。


ふっ、弟は姉には勝てないものなのさ……。



あ、シチューは美味しかったです。さすが俺。さすおれ。

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