勇者と魔王の最後の戦いの真実
告井 凪
勇者と魔王の最後の戦いの真実
「来たぞ! 魔王ベルンギウス!」
「待ちわびたぞ、勇者サグネス!」
玉座の前、漆黒の炎を纏う魔王ベルンギウス。
ヤツは魔物を使って俺たちの世界を侵略した、正真正銘の『悪』。
だが人間もただやられるだけではなかった。数々の戦士が勇者となり、魔物を屠り、ついにヤツらの居城まで攻め込むことができた。
「悪の魔王よ! もう部下はいないようだな!」
「勇者よ、お前も一人ではないか」
人類の希望。勇者。俺はその最後の一人だった。
仲間たちはここに辿り着くまでに、魔王の腹心たちとの戦いで散っていった。だが、
「俺は、一人ではないっ!」
俺の背中に、三つの青い炎が浮かび上がる。
勇者となった者には、秘技が授けられる。
俺が手に入れたのは、
死んだ仲間の魂を燃やし、力に変える技。
この青い炎は、散っていった仲間の魂だ。
「なるほど……。ならば、我が玉座まで辿り着いてみせよ!!」
魔王が右腕を振ると、纏っていた漆黒の炎から赤い炎が吹きだし、炎の壁となる。
この猛火を撃ち破らねば、魔王を攻撃することが出来ない。
「望むところだぁぁぁ!!」
俺は叫び、炎の壁に向かって駆けだした。
……いけるか?
『なに弱気になってんだ。お前ならできるだろ?』
戦士ガイド!
力自慢の大柄な男で、俺よりも年上なのに力を認めて仲間になってくれた。
酒癖は悪かったが、仲間のことをいつも気にかけてくれる、俺たちの兄貴分。
魔王の腹心との戦いでも、俺たちを庇って死んだ。
いつだってそうだ。
俺はあんたに守られてきた。あんたがいなかったら俺はとっくに死んでいた。
とても頼りにしていた、仲間だった!
「ガイドォォォ! 力を貸してくれぇぇぇ!」
青い炎の一つが、拳に宿る!
「打ち払え!!」
バシュウウウウウウウッ!!
赤い炎と青い炎が激しくぶつかり合う。
いける。ガイドの魂が、こんな炎に負けるはずがない!
『おらぁぁぁぁ! 押し切るぞ!』
バンッ!!
二つの炎が白く眩い光となり、消えていく。
「はぁ、はぁ、はぁ……ありがとう、戦士ガイド」
俺はすぐに駆け出す。まだ、終わりじゃない。
「ではこれでどうだ?」
魔王は左腕を振るう。漆黒の炎から青い炎が吹きだし、すぐさま氷の壁へと変わっていく。
これも……ぶち破るっ!
『あー、サグネス。力貸すから、なんとかしろよ』
僧侶レイガード!
とても僧侶とは思えない、いい加減なヤツだったが……なにより誰かが傷付くのを見るのが大嫌いな、優しい男だった。
最上級の回復魔法を使い、仲間を癒してくれる。本当は戦いなんて苦手だったのに。俺と知り合い、見てられないなと言って仲間になってくれた。
腹心との戦いでも、傷付きながら俺たちを回復してくれた。おかげで勝つことができたが、すでにレイガードは……。
「レイガード!! ちゃんとお礼が言えなかったけど……本当に、ありがとう!!」
青い炎が足に宿る。俺は飛び上がり、氷の壁に蹴りを放つ。
バシィィィィイイイイイ!!
氷の壁は分厚く、なかなか壊れない。
だが、だが! レイガードの魂を乗せたこの一撃に、破れぬものなどない!
徐々にヒビが入り始め――。
『サグネス! ぶち破れぇぇぇ! ……へへ、こういうのもカッコイイよな?』
バリィィン!
氷の壁は砕け散り、足に纏った炎と共に、白い光の欠片となった。
「……カッコ良かったよ、僧侶レイガード」
そしていよいよ、漆黒の炎を纏う魔王の元に。
俺は剣を抜き、悪の魔王に振りかぶった。
「ハッハッハ! その剣で我が黒き炎を斬れるか!?」
俺は一人じゃない。仲間がいる。仲間の力がある。
斬れるか、だと? あぁ斬ってやるさ。
もうすぐ
最後に残った青い炎。この魂の力で――。
『がんばって。応援してるからね、サグネス――』
「――――!!」
あぁ……魔法使いテスタ。
忘れもしない。勇者になってすぐのことだ。
強敵と戦うことになり、苦戦していた俺を助けてくれた。二人で協力してなんとか魔物を倒し、そのまま仲間になってくれたのだ。
俺の最初の仲間。そして……最愛の恋人。
ずっと俺を支えてくれていた。出会った時から好きだった。
その彼女も、最後の腹心との戦いで……俺の目の前で……。
「うっ、くっ……!」
「迷っているな? 勇者サグネスよ! やはりお前に我は斬れぬ!」
剣に――魂を宿せない。俺は……。
「嫌だ、テスタの魂を使いたくない! 使ってしまいたくない!
ずっと側にいて欲しい。ずっと君のことを抱えていたい!
いまここで剣に宿してしまえば、君と永遠に別れなくてはいけない。そんなのは嫌なんだ!」
……すまない、みんな……。
「くっくっく……ハーッハッハッハ! 無様だな! 所詮貴様の『善』の覚悟などその程度か!」
「なっ、なんだと? 『悪』の魔王が、『善』を語るか!」
「そもそも我々を『悪』と名付けたのは人間だ。我々が悪だから、人間が善だから。魔物は滅ぶべき、人間は栄えるべき。そんな理屈が通じるのは貴様等の間だけだ!」
「それはっ……!」
「我々は決して滅びぬ! ゆくぞ! ケルゲルス、セルゲート! お前たちの無念、晴らしてやろう! フェルナル、我と共に、この腑抜けた勇者を討つぞ!」
「お前……まさか!」
俺と同じなのか? その漆黒の炎は。炎の壁は、氷の壁は。
魔王の腹心たちの魂なのか?
「はっ……ははっ! そうか、そうだな! 悪の魔王……いや、魔物の王、ベルンギウス! 俺たちはもう引き下がることなど許されない! これはそういう戦いだ!」
「その通りだ、勇者よ。サグネスよ! さあ、こい!」
魔物たちにどういう事情があるかはわからない。
だが、俺が仲間の犠牲の下にここに立っているように。
ベルンギウスも同じように玉座に立っているんだ。
ならば、覚悟を決めろ。決着を、つけろ。
「うおおお! 力を貸してくれ、テスタ!!」
掲げた剣に、青い炎が灯る。テスタの魂が全身に宿り、その一撃にすべてを込める!
ベルンギウスは漆黒の炎で剣を防ぎ――。
ぶつかった瞬間、青い炎が消えた。
俺が迷ってしまったせいだ。
「くっ……うぉぉぉ!!」
だがっ! 諦めない!
「無駄だ! お前には覚悟が足りなかったのだ!」
「ぐっ……」
剣が押し返されていく。漆黒の炎が吹き荒れ、俺の全身を包み込む。
熱い、このまま焼かれていくのか。
でも、それでも。俺は剣を押し続けた。最後の瞬間まで、俺は……。
あぁ、負けたく、ない……。
『負けてないだろ。お前の覚悟、見届けた。お前の、俺たちの力を! そいつにぶつけてやれ!』
『ちょっと弱音を吐いたくらいなんだってんだよ。それが人間だろ。……今のお前、カッコイイぜ』
『サグネス。あなたの優しい気持ち、とても嬉しかった。だから……お願い。もう少しだけ――!!』
みんなっ……!
「なにっ!?」
バシュッ!!
俺を包み込んでいた漆黒の炎が吹き飛ぶ。
代わりに、青い炎が全身に宿っていた。
「これで終わりだ、ベルンギウス!!」
「くっ……サグネェェス! ぐおおぉぉ!」
ザシュッ!
剣を、振り抜く。
ベルンギウスが纏っていた漆黒の炎ごと。押し切った。
「……見事。人間よ……いや、サグネス、お前の……勝ちだ。……フェルナル……あぁ、これで終わりだ……全部。……我々は……」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
おかげでベルンギウスを討つことができた。
「でもな……さすが、魔王の腹心。フェルナルって、言ったか……ぐふっ」
俺は大量の血を吐き出す。
最後の一瞬。漆黒の炎が剣となり、俺の腹に突き刺さっていた。
あれはきっと、フェルナルの魂の力だったのだろう。最後まで、諦めていなかった。
「あぁ……テスタ。ガイド、レイガードも……。ありがとう。……そうだな、俺もそっちに行くよ。でも……でも……」
身体に力が入らず、倒れ込む。
「……悔しい……」
悔しい。そうだ、悔しいんだ!
このままでは、
『悪は滅び、善が勝った』
それだけが残ってしまう。
俺まで死んでしまったら、この戦いの真実を誰が伝えるんだ?
俺たちに仲間がいたように、魔王にも仲間がいた。
善も、悪も、関係無い。これはそういう戦いだったのに!
誰か、伝えてくれっ! 俺たちの戦いの、真実を……誰か……。
「勇者と魔王の最後の戦いの真実」・了
勇者と魔王の最後の戦いの真実 告井 凪 @nagi_schier
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