第6話

 翌朝、アンドリューと共に登校してきたエドは、まっすぐに私を目指して歩いてきた。


「沙桐さん……っ!」


 その恐い顔のせいで隣のヴィラマインが怯えて、私の方に身を寄せてくる。


 なんで昨日の今日で、私にケンカをふっかけてきそうな目を向けているのか。

 わけがわからない私は、席に座ったまま、じっとエドを見上げるしかなかった。

 昨日の口げんかを見ていた周囲の人々も、すわ再戦かと、固唾をのんでこちらに注目している。


 いや、じっと見てないで誰か助けてくれないだろうか。

 余計なことを考えているうちに、エドが私の前で立ち止まる。


 そして――――土下座した。


「師匠と呼ばせて下さい!」


「はぁっ!?」


 予想外のことに、思わず私の声が裏返る。

 それを笑いもせず、エドは私を見上げて切々と訴えた。


「昨日、いかに己が様々なことを見落としていたのかを理解しました。それを気づかせて下さった貴殿に、ぜひ自分の師匠となってもらい、指南を願いたいのです!」


「しな……しなんって……」


 まさか、エドの主であるアンドリューの恋愛を成功させるために、協力しろというのか?


「こ、ことわる!」


「そこをなんとか!」


 私のきっぱりとした拒否に、食い下がるエド。

 しかし私はうなずかないぞ。

 何が悲しくて、彼氏のいない私が他人の恋愛の世話をしなければならないのか。

 それを見ていたアンドリューが、こらえきれないように笑い出す。


「ちょっとアンドリュー。コレの主でしょ? なんとかして!」


「せっかくここまで懐いたんだ。どうせなら、異世界にいる間は沙桐にエドの主を変わってもらって、厳しく指導をしてもらうっていうのもなかなか……」


 私を奈落に突き落そうとするような発言に、エドの方は希望をにじませた表情になる。


「殿下が許可を下さるならぜひ!」


「絶対おことわりだから!」


 ひとまず私はこの場を逃れるため、教室から飛び出すしか方法が思いつけなかった。

 しかし朝のHR前だったことを忘れていたせいで、一分も経たないうちに担任教員と出くわし、首根っこをつかまれて、教室へ連れ戻されたのは言うまでもない。


 そうして弟子入り志願のエドに、追い掛け回される日々が始まったのだった。

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うちのクラスに王子と騎士がいる件について 佐槻奏多 @kanata_satuki

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