第5話
お茶会を終えて、ヴィラマインとさよならした後。
私はつかつかと件の電柱まで近づき、知らない振りをして斜め上に顔を向けているエドに言ってやった。
「このストーカー」
「なっ!!」
あっさりとこっちを振り向くエド。釣られすぎて、こっちの方が拍子抜けするほどだ。
そんなんで、本当に王子の騎士なんてやってられるのだろうか。
なんか脱力した私は、エドを放置して歩き出したのだが、
「おい、小幡沙桐!」
今度はエドの方が私を呼び止め、腕を掴んできた。
嫌々ながら足を止めた私に、エドが詰め寄ってきた。
「お前は姫君達の友人なのか?」
「…………」
なぜエドがそんなことを聞きたがったのかは分かっている。
アンドリューと仲良くさせるきっかけにできるのならと思ったのだろう。
案の定、次にエドが言った。
「……と、友達になる秘訣を教えてくれ!」
しかも道の真ん中で、平伏された。
通りすがりのおばさんやサラリーマン、杖をついたおじいちゃんまで振り返ってるよ……。
「ちょっ、立って! 早く! 恥ずかしいじゃないの!」
「そうか? 教えを請うのなら普通の態度だと……」
エドはいまいち私の焦りを理解していないようだ。
くそう。異世界から来た人というのは、恥ずかしさの基準が違い過ぎて困る。
「だから貴方の国とこっちは風習やら慣習やら違うの!」
急いでエドを立たせた私は、手っ取り早くこんな状態が続くことを阻止すべく、ずばりと言った。
「エドはね、異世界人での交流会とか企画したら?」
「は?」
「交流という名の、中身は合コン」
「ごう、こん?」
まだ理解できないらしく、エドがこてんと首を傾けた。
「そこでアンドリューが王女様の誰かを気に入ったら御の字、そうじゃなかったらあきらめた方がいいと思うんだけども」
「なっ、諦めるわけにはいかないのだ。なんとしても殿下には由緒正しく、しとやかな方を……」
今ので確定したぞ。ソフィー嬢に○をつけてたのは、おとなしそうな子だからか。でもアンドリューのタイプが気の強い女の子だったら、どうするの。
そもそも、エドは異世界に留学してきた理由を、やっぱりわかっていない気がする。
だから私は言った。
「なら、どうして王子の両親……王様よね? は、王子を異世界なんかに来させたのよ」
「そ……それは広く知識を得る為に……」
「思春期男子を放置して、自由恋愛してこないわけがないでしょ。しかも見張りはほとんどいない。由緒正しい相手と結婚させたいなら、留学になんて出すわけもないじゃない」
「いやそれは……留学すると箔が……」
「じゃあなんで、婚約者のいない人間ばかり来てるのよ。自由恋愛しろってことでしょ? 少なくともヴィラマイン達はそう教えてくれたわよ」
電柱の影にエドがいることに気づいた私は、気になって聞いてみたのだ。
お伴も少数だけという、そんな隙が多い状態になるのに、親である国王は心配したりしないのかと。
すると、ヴィラマインが教えてくれた。
むしろ留学先だからという利点を使って、より良い相手を見つけてくれるのを、各国の王達が期待しているらしい。
他国の人間が一か所に集まるんだものね。
また、その相手がこちら側の人間でも、そこそこ能力のある者であればとやかくは言われないんだとか。
「異世界間条約で、決められた以上の技術や物品の相互流入はできませんけれど、結婚は別ですから」
交流が始まった当時、異世界の王様達はこちら側の科学技術に驚き、恐れをなした。こちら側も魔物の存在を知り、その流入を制限したがった。
結果、今になってそれが技術発展の枷になってしまっているのだという。
けど結婚によって異世界へ移動した人が、何かを教えることについては制限が厳しくはないそうだ。
しかしこういったことを、エドが全く理解していないということが、信じられなかった。
一体誰だろう。この直線バカに、恋愛がからむような繊細な問題を一任して、異世界に送り込んだのは。
「だいたい、無理矢理くっつけたって後で上手くいかなくなるわよ? 貴方アンドリューの好みとか聞いた? どうしてもアンドリューのお嫁さん探しがしたいなら、そういうことも考えなさいよ」
そこを無視しては、どんなに努力をしようと報われることはあるまい。
これぐらい釘をさしておけば、親愛なるお姫様方にも迷惑をかけることはなくなるだろう。
良い仕事をした。
そう思った私は「じゃあね」と言って、今度こそエドを置いて立ち去ったのだった。
これでしばらく、エドも大人しくなるに違いない。と思ったのだが。
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