第3話

 それを知ったのは、確か始業式から間もない放課後のこと。

 掃除の後でゴミ捨て場に行くと、エドがゴミを漁っていたところに行き合ったからだった。


 猛然とゴミをかきわける異国の美少年、というのは、大変微妙な光景だった。

 あー、なんか鼻かんだやつとか手に掴んでるけど、ほんとにいいのか? と尋ねたくなるかぶりつきっぷりに、ちょっと引いた。


 とはいえ、この時はまだエドに対してうざいと思っていなかった私は、転入したばかりで勝手がわからないのだろうと、親切に声を掛けた。


「エド君、捜し物?」


 すると振り向いたエドは、私の持っているゴミ袋を見て、目をかっぴらいた。三白眼が縦に二倍の大きさに広がったことに、私も驚いた。


「ま、まさか……」


「え?」


「それは、うちの教室のゴミなのか?」


「そうだけど?」


 今日は掃除当番の日だった。そして私は、じゃんけんに負けてゴミを捨てに行く役目になっていたのだ。

 エドはそれを知るなり、


「そ、そのゴミを改めさせてくれ!」


 といってゴミ袋を私からひったくり、再びゴミ漁りを始めたのだ。

 けれどその甲斐あって、エドは目的の物を見つけた。


「あったーーー!!!」


 燦然と輝く王冠を見つけたかのように、折り目一杯の問題用紙が掲げられた。

 確かそれは、数学の小テストの問題用紙だ。

 その裏には、なぜか様々な人の名前が書いてある……たぶん、エドの母国語で。

 だから私には読めないと思って、隠しもしなかったのだろう。


「協力、感謝する」


 と告げて、エドはゆっくりと折りたたんでからその場から走り去った。

 しかし私は、異世界人が入学してくる学校に入る前、王子様やらとの出会いに胸ときめかせながら、文字を覚えた黒歴史時代があるのだ。


 平凡な自分に、そんな夢のようなことなど起るわけがないと、一年生の頃にきっぱり諦めたのだが。どこでどう知識が役に立つのかわからないものだ。


 そんなわけで、エドのくしゃくしゃ問題用紙の裏に書き連ねてあった名前を、私はばっちり識別できた。

 数秒だったので全部は覚えられなかったが、彼女達の名前の頭に○と×が書いてあって……同じクラスのヴィラマインという異世界の王女の名前の横には、○が見えた。


 王子と共に入学した騎士が、異世界の王女や貴族令嬢達の名前を書き連ね、○×を書いて選別していく理由……。

 その後、エドがしきりにアンドリューをヴィラマインの近くへ誘導しようとするのを見て、確信した。


 ……こいつは、王子様の結婚相手を選別していたのだ、ということを。

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