閑話休題2
「最近調子のおかしい子がいるの」
マヤはそう言って右脇腹付近に鋭い蹴りを入れる。もちろんそれは入るわけもなく軽く手でいなされてしまう。
「調子がおかしいって? 夜遅くの仕事だし疲れてるんじゃないですか?」
蹴りを止めた同じ道場の門下生の純は、他人事のように言いながら女子の顔面にパンチを繰りこんでくる。もちろんすんなり躱す。
「やっぱり純に相談するのは筋違いだったわ。陣さんならもう少し話聞いてくれるのに。今日いないの?」
「今日は武術道場のお偉いさんたちの会合だからねぇ。こっちには来れないんじゃないかな。おかげで店も臨時休業だしね」
「じゃあ悪いけど聞いてもらうわよ!」
語尾の最後に繰り出した蹴りは空を切った。
相談役に向いていない純にさえ聞いてもらいたいとマヤが思うのには、それだけ切羽詰まった理由がある。
マヤはホストクラブの裏方仕事をしているのだが、そこのナンバーワンホストが最近不調なのだ。笑顔がぎこちなく、囁く言葉も上の空のよう。贔屓にしてもらっている客からもクレームがくる始末で、マヤも頭を悩ませていた。
「何かきっかけとか心当たりないの?」
受け取ったスポーツドリンクを口にし、記憶を探るまでもなくある出来事が頭に思い出される。
「ないこともないんだけど……」
一度だけ、やけに機嫌がいい時があった。だがそのすぐあとから急に不調に陥りだしたのだ。
「直接聞いた方がいいんじゃない?」
「聞いてるわよ、何度も! でも、『すみません』と『大丈夫です』の一点張りで何にもわかりゃしないのよ!」
ぐりっとペットボトルを握り、苛立たしさを露わにするマヤ。そんな彼女に対し、純は相変わらずのんきだ。
「人間生きてればそういうこともあるよ」
やはりこいつは相談役には向いていない。
目下の悩みは解決せず、わかりきったことだけがわかったのだった。
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