第2話

「衛兵さん、一昨日はありがとうございました。」


 ガレッタは町の城壁に来ていた。そこには一昨日、ならず者達を捕まえた衛兵がいた。


「国民の命を守るのが俺達の仕事だからね。でも、お礼を言ってもらえると嬉しいなぁ。」


 衛兵は笑った。


「それで、今日も特訓をして貰いたいんです。」


「もう大丈夫なのかい? ......大丈夫そうだね。じゃあやろうか。一昨日のようなことが起こっても対応できるように対人戦の練習もしなきゃね。」


 この衛兵は町の門番をしていた。1日にそう何人も田舎を通らない。はっきり言って衛兵は暇だった。なのでガレッタの特訓に付き合っていた。


「最初は走り込みだ。一昨日だっていつも走っていたからあそこまで生き延びれたんだ。逃げ足というのは大事だぞ。」


 そう言ってガレッタを走らせた。


「二秒早い、ペースを守って。」


 衛兵は手元の時計を見ながら言った。衛兵はガレッタを200メートル40秒で走らせている。40秒より早かったり遅かったりするとその度にズレを伝えている。


「ペースをしっかり守れるということは自分の体を上手に使えている証拠だ。ズレが出たら体と話すんだ。どうしたらそのズレを修正できるかね。」


 初めての特訓の時に衛兵がガレッタに言ったことだ。ガレッタはその教えを守っている。

 ガレッタは3キロ分走った。走り終えると息を整えて筋トレを行う。腕立て伏せに腹筋、縄跳びだ。この筋トレのお陰でガレッタは孤児とは思えない程度の筋肉はついている。


「よし、じゃあ対人戦の練習をしよう。まず、人と戦うときに大事なことは何かな。」


 衛兵が尋ねた。ガレッタは言葉を詰まらせる。

「まあ、分からないよね。ガレッタは良い子だもんね。答えは有利に立つことだ。武器が無ければその辺の石でも良い。相手に気づかれていなければ意識外、視覚外で良い。仲間を集めて多勢でもいい。あらゆる状況でも自分は有利に立たなければいけない。そうしなければどんなに強い人間でもやられてしまう。まあ、神の使徒は話が違うけど。」


 そう言って衛兵は鎧を脱ぐ。


「だから僕は有利に立つ方法を教えよう。これは他人の目から見ればズルいと思われることだ。それでも教わりたい?」


「教えてください。次は助けが来ないかもしれません。その時に僕は生き残りたいんです。」


 衛兵はにっこり笑った。


「いいだろう。ちょっとハードだけど実践形式でいこう。見て盗んでね。」


 そういうと衛兵はガレッタと少し間をとった。そして一息つくとガレッタに向かって駆け出した。


「先ずは敵の目を見るんだ。視線で狙いが分かりやすい。」


 そう言いながら衛兵はガレッタの顔めがけて拳を振るった。ガレッタはギリギリのところでガードする。すると衛兵はガレッタの足を踏む。ガレッタはたまらず足をみる。瞬間、衛兵の拳がガレッタの鼻の前に飛んできてギリギリのところで止まった。


「敵の言葉は信用しないように。言葉も有利に立つことの1つだ。そして常に相手の全体を見るんだ。さっきのように足に注目してたらすぐに殴られる。足を踏まれても前を向くんだ。そして、これを君がするんだ。相手より有利に立つこと、これさえ出来ればそこら辺のごろつきくらいは倒せる。でも、今は出来るだけ逃げた方がいいね。生き残りたいならなるべく逃げることだよ。」


 衛兵はそう言うと鎧を着直した。そしてガレッタに言う。


「今日はここでお仕舞い。まだ本調子でも無さそうだしね。ゆっくり休めばいい。あと、一昨日の奴等は昨日釈放されている。万が一のことがあるかもしれないから、早めに孤児院に帰るんだよ。」


「お気遣い、ありがとうございます。」


 そう言ってガレッタは城壁を離れた。夕方前、空が赤く成り始まっている。



 孤児院に帰っている途中ガレッタは大柄の男とぶつかってしまった。


「気を付けろよ、ガキ。」


「すみません。」


 ガレッタはいささか気分を悪くしたがこの場で敵を作っても意味はない。素直に謝った。気がつくと手の上に紙がある。不思議に思って紙を見る。


「シスターは預かった。返してほしければ1人で来い。」


 ガレッタはすぐに回りを見渡した。すると先程の男が彼の方を見ながらニヤニヤと笑っていた。そして先導するかのように歩いていった。ガレッタは迷った。このままあの男についていくか、それとも衛兵に助けを求めるか。


(衛兵を呼んでいたら間に合わないかもしれない。)


 ガレッタはそう思い男についていった。


 町の外れにある小屋だった。男はドアを開いてガレッタを小屋の中に招き入れた。すると一昨日いた二人組と仲間と思われる男達が数人いた。


「おいおい、遅いじゃあねぇか。暇だったから嬢ちゃんをヤっちまうところだったぜ。」


「やだぁ、見ないでぇ。」


 ミカは身ぐるみを剥がされ、地面に横たわっていた。輝いていた金色の髪は土や埃で汚れている。体は擦り傷だらけだ。


「てめぇ等―――」


「おおっとぉ、動くんじゃあねぇ。嬢ちゃんがどうなっても良いのかぁ。そうだそうだ、そのまま動くんじゃあ、ねぇぞ!」


 一昨日、剣を持っていた男が蹴りを入れる。そして間髪入れずに腹を蹴りつける。ガレッタはたまらずうめき声を上げた。


「もっと喚けぇ。俺達の怒りはこの程度じゃあ収まらねぇ。ここで大声出しても衛兵達は気づかねぇから、存分に喚いていいぞ。」


 そう言って顔を蹴り飛ばす。ガレッタは体のバランスを失ってその場に倒れた。


「どぉしたぁ。もう終わりか。まあいい、さっさと片付けてこの女でもヤるか。中々良さそうだからなぁ。」


 男はそう言って剣を抜く。ガレッタは動けなかった。先程の一撃で体に力が入らない。ガレッタは怖くて目を閉じた。


「止めてぇぇぇぇ!」


 ミカの言葉を皮切りにガレッタの意識は段々遠退いていった。



 ガレッタが目を開けると炎の海の上にいた。


「やっと起きたか。待ってたぜ。」


 ガレッタの目の前にはカラスの頭をした男がいた。

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