第12話 リボルト#03 一喜一憂の新歓パーティ Part2 神出鬼没コンビ
「ごめんなさい、菜摘さん! また今度正式なライブとかやりますから、気が向いたら是非見に来てくださいね!」
アイドルとしてのサービス精神をうまく振りまけず、申し訳ないとでも思っているのか、冴香はひたすらペコリと頭を下げている。
「本当に!? やった~! 約束だよ、冴香さん!」
もちろん天真爛漫な菜摘は、その言葉を疑うことなく、落ち込んでいた姿はまるで嘘かのように、すぐさま元気に戻る。
「相変わらず真面目なのね、冴香。そこまで意気込むことはないのに~」
「で、でも、もう一年も外に出なかったから、ファンのみなさんは、もうわたしたちのことを忘れたのかもぉ……」
またしても弱音を吐く千紗。そういや、ここは完全寮制だったっけな。卒業するまでに出られないから、アイドルとしてはそれはそれで辛いかもしれねえな。
「大丈夫だよ! たとえ他のファンが忘れたとしても、私はぜったーいに忘れないからね!」
指の間にサイリウムを挟んでいるままで、菜摘は両手を大きく振り上げながら、左右に激しく動かしている。彼女があのアイドルたちへの情熱は、紛れもなく本物だ。菜摘のそういうところ、嫌いじゃないぜ。
「あ、ありがとうございます!」
励まされたトリニティノートの
「もう、冴香ったらお辞儀しすぎ! もう汗びっしょりじゃない」
冴香の
もっとも
「あっ、本当だ! 着替えてこなくちゃ! それでは皆さん、ちょっと失礼しますね~」
冴香はそう言ったあとに、三人は依然と軽やかなステップで楽屋裏に戻った。
これでしばらく静かになるな、と思った俺だったが、現実は俺をからかうかのように、すぐさま次の瞬間から新たな出来事が起こる。
しっかりと閉まっていた会場の扉が、突然何者かによって乱暴に開かれた。ドンと大きな騒音が、静かな会場を侵入する。驚く俺たちは、反射的に扉の方向を振り向く。
そこにいるのは、先程のアイドル三人組に負けないほどの、
今度はなんだ? ファッションショーでもするのか?
「我が
先に発言したのは、ゴスロリドレスの子だった。なんだ、その理解不能な言葉は!? いや、まったく理解できないわけじゃねえけど、いくら「変なヤツ」として認識されてきた俺でも、あまりにも難しい言い回しに、俺は思わず
「私たちのクラスに、新しいクラスメイトが転学してくるという話を、委員長から聞いたよ!」
まるでリレー競走のバトンタッチのように、ゴスロリっ子の後に続くように、魔法少女の子はすぐ
「我が
「私の日記に、また1ページが増えたなぁ~」
「この瞳に
「私に見られた以上、あなたのことを決して忘れない! 今日から、あなたは私の友達!」
「さあ、
「さあ、パーティを始めよう! ってことで、ご飯は?」
「………………」
魔法少女の格好をしている子は、呆気に取られている俺たちの存在をお構いなしに、勝手にテーブルの周囲で歩き回り、食べ物を探し始めている。
「……
破天荒な格好と登場の仕方に呆れつつ、
「いやー、すまぬ頭領、儀式の準備で少し手こずってしまってな」
「……通訳をお願いします、飯塚さん」
千恵子は目を瞑り、震えた片手を上げている。
「いやー、ごめんね委員長、服を着替えるのにちょっと手間取っちゃって。これ、結構自信作なのよ~」
飯塚と呼ばれている魔法少女っ子は、自分のフリルたっぷりの、丈の短いスカートの裾を引っ張りながら、自慢しようとくるりと回っている。それはまるで舞い散る花びらのように、とてもキレイだった。
なるほど、どうりでさっき教室にいなかったのか。あれほど複雑な服装に着替えるのに、相当時間がかかりそうだしな。
しかし、生真面目な千恵子はそれを許すはずがなかった。
「そんな理由で、遅刻してもいい理由にはなりません! あと、何なんですか、その短いスカートは! は……はしたないですよ!」
千恵子はまた取り乱して、逆上してしまった。上擦った声はともかく、頬がリンゴみたいに赤くなり、飯塚を指している指がバランスを失い、ぶるぶると震えている。忘れかけていた、先程教室での一幕が蘇ってしまう。
「いいじゃない、減るもんじゃあるまいし~」
そんな千恵子に反して、気さくで大ざっぱな飯塚。天と地の差だな、これは。
「そなたは狛幸秀和? 会えてうれしいわ。我が名は
二人を無視して、宵夜はこっちに近付いてきて、俺に手を伸ばしてくれた。ちょっと変わった子だけど、悪い人じゃなさそうだ。こっちも友好の印を示そうじゃねえか。
「ああ、そうだ。俺は狛幸秀和だ、よろしくな」
俺は宵夜の手を握ると、物凄い温度が、全身にほとばしる。
「ふふふ……感じる、感じるぞ……血の
突然高笑いを上げる宵夜。一体なにがあったんだろう?
「あっ、この子はただ新しいお友達ができて興奮してるだけだから、あんまり気にしないで~」
後ろから飯塚の声が響く。よほどの仲良しなのか、彼女は難なく宵夜の気持ちを読み取れている。
「あっ、私は愛名!
こっちのコスプレ少女は、割と普通のしゃべり方をしていて助かる。茶色のポニーテールも、いかにも普通の女子高生らしい髪型だ。
……ただその派手な衣装を着ているせいで、俺の思考回路では彼女を「普通の女子高生」としてみなすことができなくなった。まあ、個性があるのはいいことなんだぜ、うん。
「ああ、よろしくな、愛名。そうだ、二人ともいい格好してるぜ」
いきなり登場してきたのは驚いたが、彼女たちはこのインパクトのある登場のため、色々考えてたんだろうな。せめてその努力を褒めるぐらいのことをしておかないと。
「なんと! この
「あはは、ありがとう! 頑張った甲斐があったね~」
二人は喜悦の満ちた顔を見せる。まあ、褒められて悪い気がする人はいないだろうな。
「ところで、愛名は魔法少女のコスプレしてるの分かるけどさ、宵夜のその格好は、何のコスプレだ?」
「えっ、見て分からないの? これはれっきとした吸血鬼なんじゃない!」
宵夜に質問しているはずなのに、お喋り好きな愛名が割り込んできた。けどまあ、言われてみれば確かにそう見えるな。おけがで紫色の縦ロールも見栄えがするぜ。
「その通り! 我は
宵夜は何も隠さずに、高らかに笑いながらそう言い放った。その大きく開いた口から、八重歯っぽい何かが見える。なるほど、そういう
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【雑談タイム】
秀和「君と宵夜は仲よさそうだな。同じ趣味でも持っているのか?」
愛名「そだよ! アニメゲーム、そしてコスプレ~」
秀和「なるほど、二次元ラバーか」
愛名「そうそう! ひっでーくんは?」
秀和「まあ、それなりにな。とことで、その『ひっでー』というのはなんだ?」
愛名「あだ名だよん~私は、人を呼ぶ時にあだ名で呼ぶからさ」
秀和「変えてくれよ……いくらなんでも『ひっでー』はねえだろう」
愛名「じゃ~ヒレカツくん?」
秀和「なんでそうなる!」
菜摘「ぷぷ……あははは……哲也くん、ヒレカツだって!」
哲也「笑いごとじゃないだろう……もしいつか秀和が非常食になったら、シャレにならないぞ」
秀和「ブラックジョークすぎるぞ、哲也!」
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