第12話 リボルト#03 一喜一憂の新歓パーティ Part2 神出鬼没コンビ

「ごめんなさい、菜摘さん! また今度正式なライブとかやりますから、気が向いたら是非見に来てくださいね!」

 アイドルとしてのサービス精神をうまく振りまけず、申し訳ないとでも思っているのか、冴香はひたすらペコリと頭を下げている。

「本当に!? やった~! 約束だよ、冴香さん!」

 もちろん天真爛漫な菜摘は、その言葉を疑うことなく、落ち込んでいた姿はまるで嘘かのように、すぐさま元気に戻る。


「相変わらず真面目なのね、冴香。そこまで意気込むことはないのに~」

「で、でも、もう一年も外に出なかったから、ファンのみなさんは、もうわたしたちのことを忘れたのかもぉ……」

 またしても弱音を吐く千紗。そういや、ここは完全寮制だったっけな。卒業するまでに出られないから、アイドルとしてはそれはそれで辛いかもしれねえな。

「大丈夫だよ! たとえ他のファンが忘れたとしても、私はぜったーいに忘れないからね!」

 指の間にサイリウムを挟んでいるままで、菜摘は両手を大きく振り上げながら、左右に激しく動かしている。彼女があのアイドルたちへの情熱は、紛れもなく本物だ。菜摘のそういうところ、嫌いじゃないぜ。


「あ、ありがとうございます!」

 励まされたトリニティノートの冴香リーダーは、口を大きく開けた明るい笑顔を浮かべながら、再びペコリとお辞儀をした。

「もう、冴香ったらお辞儀しすぎ! もう汗びっしょりじゃない」

 冴香のひたいには、ピカピカと光るしずくしたたる。無理もない。さっきの激しいダンスに加えて、かなり運動したはずだ。それに今は9月とはいえ、まだ残暑は残っているしな。

 もっともヘブンインヘル私立学校は、俺たちが暮らしている、元の世界の話ならばな……


「あっ、本当だ! 着替えてこなくちゃ! それでは皆さん、ちょっと失礼しますね~」

 冴香はそう言ったあとに、三人は依然と軽やかなステップで楽屋裏に戻った。

 これでしばらく静かになるな、と思った俺だったが、現実は俺をからかうかのように、すぐさま次の瞬間から新たな出来事が起こる。

 しっかりと閉まっていた会場の扉が、突然何者かによって乱暴に開かれた。ドンと大きな騒音が、静かな会場を侵入する。驚く俺たちは、反射的に扉の方向を振り向く。

 そこにいるのは、先程のアイドル三人組に負けないほどの、豪華絢爛ごうかけんらんと言っても過言ではない衣装を身に付けている女子二人だった。左の子はバラのアクセサリー付きのゴスロリ風ドレスを、右の子はテレビアニメの魔法少女っぽい格好をしている。二人は背中を合わせながら、何かと戦っているように身構えている。

 今度はなんだ? ファッションショーでもするのか?


「我が結社けっしゃに、新たな同胞どうほうが加わったという頭領とうりょう囁きメッセージを受け取ったわ!」

 先に発言したのは、ゴスロリドレスの子だった。なんだ、その理解不能な言葉は!? いや、まったく理解できないわけじゃねえけど、いくら「変なヤツ」として認識されてきた俺でも、あまりにも難しい言い回しに、俺は思わず瞠目どうもくし、開いた口が塞がらない。


「私たちのクラスに、新しいクラスメイトが転学してくるという話を、委員長から聞いたよ!」

 まるでリレー競走のバトンタッチのように、ゴスロリっ子の後に続くように、魔法少女の子はすぐ明朗めいろうな声を出す。言葉の内容からすると、もしかしてあのゴスロリっ子の通訳でもしているのか?こりゃすげえぜ。


「我が編年史クロニクルに、記録すべき紙の束がまた増えた!」

「私の日記に、また1ページが増えたなぁ~」

「この瞳に烙印らくいんを刻まれた瞬間、もはや逃げ出すすべはあるまい! これより、同盟どうめいちぎりを結ぶ!」

「私に見られた以上、あなたのことを決して忘れない! 今日から、あなたは私の友達!」

「さあ、うたげの始まりでも告げようじゃないか!」

「さあ、パーティを始めよう! ってことで、ご飯は?」

「………………」

 魔法少女の格好をしている子は、呆気に取られている俺たちの存在をお構いなしに、勝手にテーブルの周囲で歩き回り、食べ物を探し始めている。


「……野薔薇のいばらさん、飯塚いいづかさん、また遅刻ですか」

 破天荒な格好と登場の仕方に呆れつつ、ったを顔を浮かべている千恵子。常識人の彼女では、到底想像できない領域だろう。

「いやー、すまぬ頭領、儀式の準備で少し手こずってしまってな」

「……通訳をお願いします、飯塚さん」

 千恵子は目を瞑り、震えた片手を上げている。

「いやー、ごめんね委員長、服を着替えるのにちょっと手間取っちゃって。これ、結構自信作なのよ~」

 飯塚と呼ばれている魔法少女っ子は、自分のフリルたっぷりの、丈の短いスカートの裾を引っ張りながら、自慢しようとくるりと回っている。それはまるで舞い散る花びらのように、とてもキレイだった。

 なるほど、どうりでさっき教室にいなかったのか。あれほど複雑な服装に着替えるのに、相当時間がかかりそうだしな。

 しかし、生真面目な千恵子はそれを許すはずがなかった。


「そんな理由で、遅刻してもいい理由にはなりません! あと、何なんですか、その短いスカートは! は……はしたないですよ!」

 千恵子はまた取り乱して、逆上してしまった。上擦った声はともかく、頬がリンゴみたいに赤くなり、飯塚を指している指がバランスを失い、ぶるぶると震えている。忘れかけていた、先程教室での一幕が蘇ってしまう。

「いいじゃない、減るもんじゃあるまいし~」

 そんな千恵子に反して、気さくで大ざっぱな飯塚。天と地の差だな、これは。


「そなたは狛幸秀和? 会えてうれしいわ。我が名は野薔薇のいばら 宵夜よいや。運命の占いは、いつかそなたに出会える定めと、そう導いてくれたぞ」

 二人を無視して、宵夜はこっちに近付いてきて、俺に手を伸ばしてくれた。ちょっと変わった子だけど、悪い人じゃなさそうだ。こっちも友好の印を示そうじゃねえか。

「ああ、そうだ。俺は狛幸秀和だ、よろしくな」

 俺は宵夜の手を握ると、物凄い温度が、全身にほとばしる。

「ふふふ……感じる、感じるぞ……血のたぎりを!」

 突然高笑いを上げる宵夜。一体なにがあったんだろう?

「あっ、この子はただ新しいお友達ができて興奮してるだけだから、あんまり気にしないで~」

 後ろから飯塚の声が響く。よほどの仲良しなのか、彼女は難なく宵夜の気持ちを読み取れている。

「あっ、私は愛名! 飯塚いいづか 愛名まな、よろしくね~」

 こっちのコスプレ少女は、割と普通のしゃべり方をしていて助かる。茶色のポニーテールも、いかにも普通の女子高生らしい髪型だ。

 ……ただその派手な衣装を着ているせいで、俺の思考回路では彼女を「普通の女子高生」としてみなすことができなくなった。まあ、個性があるのはいいことなんだぜ、うん。


「ああ、よろしくな、愛名。そうだ、二人ともいい格好してるぜ」

 いきなり登場してきたのは驚いたが、彼女たちはこのインパクトのある登場のため、色々考えてたんだろうな。せめてその努力を褒めるぐらいのことをしておかないと。

「なんと! この神聖しんせいなる降臨こうりんに、賛美さんびの評価を下すとは……! 恩に着るぞ」

「あはは、ありがとう! 頑張った甲斐があったね~」

 二人は喜悦の満ちた顔を見せる。まあ、褒められて悪い気がする人はいないだろうな。

「ところで、愛名は魔法少女のコスプレしてるの分かるけどさ、宵夜のその格好は、何のコスプレだ?」

「えっ、見て分からないの? これはれっきとした吸血鬼なんじゃない!」

 宵夜に質問しているはずなのに、お喋り好きな愛名が割り込んできた。けどまあ、言われてみれば確かにそう見えるな。おけがで紫色の縦ロールも見栄えがするぜ。


「その通り! 我は冥界インフェルノにより転生し、現世リアルワールドに降臨した吸血鬼よ! よく覚えておくといい!」

 宵夜は何も隠さずに、高らかに笑いながらそう言い放った。その大きく開いた口から、八重歯っぽい何かが見える。なるほど、そういう配役キャラを演じているのか。指摘すれば野暮になるだろうし、黙っておこうかな。

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【雑談タイム】


秀和「君と宵夜は仲よさそうだな。同じ趣味でも持っているのか?」

愛名「そだよ! アニメゲーム、そしてコスプレ~」

秀和「なるほど、二次元ラバーか」

愛名「そうそう! ひっでーくんは?」

秀和「まあ、それなりにな。とことで、その『ひっでー』というのはなんだ?」

愛名「あだ名だよん~私は、人を呼ぶ時にあだ名で呼ぶからさ」

秀和「変えてくれよ……いくらなんでも『ひっでー』はねえだろう」

愛名「じゃ~ヒレカツくん?」

秀和「なんでそうなる!」

菜摘「ぷぷ……あははは……哲也くん、ヒレカツだって!」

哲也「笑いごとじゃないだろう……もしいつか秀和が非常食になったら、シャレにならないぞ」

秀和「ブラックジョークすぎるぞ、哲也!」

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