反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)
第10話 リボルト#02 新たな出会いは、そこに絆がある Part5 トリニティノート
第10話 リボルト#02 新たな出会いは、そこに絆がある Part5 トリニティノート
そして、何かを思い出したかのように、先ほど無気力で座っていた千恵子がすっと立ち上がった。
「はっ、いけません、危うく大事なことを忘れるところでした!」
「なんだ? 大事なことって」
展開が読めない俺は、千恵子に質問を投げた。すると隅っこに座ってお喋りをしてた女子三人組が、先立って返答してきた。
「今から、転校生くんを歓迎するためのパーティを開くんだよ! あたしたちのスペシャルライブもあるから、楽しみにしててね~♪」
炎のように赤く燃え盛る、ツーサイドアップの髪型をしている元気そうな女子が、紫水晶のような瞳を光らせながら、片手をピースサインにして目の周りに当てるという、いかにも売り子アイドルっぽいポーズを取っている。
って、たった俺一人だけのために、ここまで用意してくれたのか? やれやれ、誰のアイデアかは知らねーけど、ずいぶんと嬉しいことをしてくれるじゃねえか。
「えっと、まだ考えたばかりで、今まで歌ったことがないんですけど、精一杯歌いますので、是非聞いてくださいね!」
頭の後ろに大きなリボンを付けていて、さらさらした長い黒髪を揺らしながら、もう一人の女子が礼儀よくをお辞儀をした。その健気で無邪気な笑顔が、頭の中にある煩悩や気疲れを忘れさせてくれる。
へー、じゃ俺たちはその歌を初めて聞くメンバーになるのかな。こりゃラッキーだぜ。
「よ、よろしくお願いします……ふぇぇぇ」
灰色のショートボブの三人目の女子が、蚊が鳴るような小さな声で挨拶をした後、なぜか急に何怯え始めて、視線を窓の外にそらした。
「ご厚意ありがとよ。ところで、君たちは誰なんだ?」
またしても美少女から声をかけられた。しかも三連コンボ。これほど嬉しいことはねえな。けど、さすがに見覚えのない人にいきなりこんな風に話しかけられたら、さすがに俺も慣れないぜ。しかし、何とかして会話を繋ごうと話題を投げてみたら、相手がとんでもないリアクションをしてきた。
「「「「えええええええーーー!?」」」」
まるで自分を知らない人がいないと思っているように、彼女たちは一斉に驚きの声を上げた。
……そして、もう一人。振り返ってみると、なぜか菜摘まで目を見開いて、「信じられない」と言っているような表情を浮かべている。
「どうした、菜摘? 何か変か?」
そんな不思議な顔をされたら、さすがにこっちまで不思議に思えてくる。真相を知るべく、俺は菜摘に質問を投げた。
「だって、あの子たちは有名アイドルユニットの『トリニティノート』なんだよ!? 知らないほうがおかしいって!」
「いや、俺はアイドルにあんまり詳しくないし、興味がないからな。ただでさえ自分の趣味を追うのに精一杯なんだし、いちいち別の分野で気を取られる暇がないんだぜ?」
「ダメだよ、それじゃ! 視野が狭すぎると、いつか時代の波に取り残されちゃうんだよ?」
「時代の波か……いいか菜摘、ただ他人に合わせて自分らしさを失うのはよくないぜ。波に流されるんじゃなくて、自分が波になって周りを流すんだ。君だってモデルをやってるんだろう? だったらもっと注目の的になるよう頑張らねえと」
何でも他人と同じになるのは、性に合わねえ。
確かにみんなは同じく人間だが、自分らしさがないとただのロボットにすぎねえ。だから俺はあえて「
「はぁ……やっぱそうなるよね。秀和くんならそう考えちゃうけど、私が波になるなんて無理な話だよ」
「そんなことないって。菜摘が強く願えば、どんなに難しいことでもできるぜ」
観念した菜摘は、大きな溜め息をついた後、自分のピカピカと光っている髪に覆われている額を、パッと叩いた。そんな彼女を、俺は思いっきり励ます。
「そんじゃせっかくだし、アイドルに詳しい菜摘に、あの子たちのことを紹介してもらうことにするか」
さすがにこのままだと気まずいから、菜摘にメンツを挽回するチャンスを与えてやろうか。
「ゴホン! それじゃ、よーく聞いててね。あそこの大きなリボンをつけている黒い髪の子は、『トリニティノート』のリーダー、
「改めまして、立花 冴香です」
冴香と名乗った子は、あどけない笑顔を浮かべながら、またしてもペコリとお辞儀をした。
そして、彼女は衝撃の一言を口走った。
「菜摘さんの写真が載っているファッション誌は、拝見したことがありますよ。どの写真もステキで、素質があると思います!」
「えっ、本当に!? いや~、そう言われると何か照れるねぇ~」
どうやら本人も初耳だったようで、喜びのあまりに顔が一瞬赤くなり、頭を引っかきながら照れくさそうに笑っている。
「よかったじゃないか、菜摘。お互いファンになってさ」
「いや、でも、冴香さんのほうがもっと凄いんだよ!? ほら、色々歌ったり踊ったりするし、それにイベントもたくさんあるし……私なんか、ただ着替えて被写体になるだけだからさ……それに、雑誌に載ったのもあの一回だけだし……」
「そう自分を見下すな」
俺は、柄にもなくオロオロしている菜摘の頭に、チョップを食らわした。まったく、こんなに慌てる菜摘を見るなんて、中学ぶりだな。せっかく自信を持てるようになってるから、親友としては励ましてやらねえとな。
「いたっ!」
「菜摘だって、菜摘なりに頑張ってるだろう? 苦労してるのはみんな同じさ」
「そうなんですよ! 菜摘さんのポーズやファッションのコーディネート、どれも素晴らしくて、私じゃなかなか真似できなくって!」
冴香は菜摘の両手を握りしめ、尊敬の眼差しで彼女を見つめている。うんうん、互いを認め合う姿勢は、とても見上げたものだ。こういう雰囲気に包まれると、なぜか優しい気分になる。
「えっ、そうなの?」
「はい! これからも色々教えてくださいね、菜摘さん!」
「うん、もちろんだよ! よろしくね、冴香さん」
へー、なかなかいい線いってるじゃないか。俺は二人を見守りながら、思わず口元を緩めた。
「あっ、ごめんごめん! まだ紹介の途中だったね。次はそこの赤い髪の女の子、
我に返った菜摘は俺に顔を向けて、派手な髪型をしている女子を手のひらで示して、その名前を教えてくれた。
「ハーイ、歌音 優奈だよ! 今日も元気満タン、ウルトラ絶好調~♪」
優奈は名乗ったあと、いきなり歌い始めた。さすがはアイドルの魂がこもっているわけか。
「そして、あそこにいるのは
何かまずいものでも見たのか、突然言葉が詰まる菜摘。俺は教室の隅っこを眺めると、さきほどの灰色のショートボブの女子がなぜかしゃがんで頭を抱えている。具合でも悪いのか?
「ううう……いきなりこんなたくさんの人の前で歌わないといけないの……お、お願いだから嫌わないでぇ~」
千紗と呼ばれている女子が、よほど緊張しているのか、ぶつぶつと何かを呟いている。どうやらアイドルの仕事にはまだ慣れていないようだ。俺はアイドルになったことはないから、その苦労を知るわけがないが、大変なのが承知の上だ。
「ち、千紗ちゃん! 大丈夫だよ、私と優奈ちゃんがいるから、そんなに緊張し……わっ!」
冴香は千紗を鼓舞しようと肩を触ろうとしたが、千紗は感触に反応して、バネのように素早く立ち上がった。それを予想できなかった冴香は、驚いて乱れた歩調で後ろに下がった。
「ひっ! ごめんなさいごめんなさい! こんなダメなわたしでごめんねさい!」
千紗はうわずった声で、平謝りしている。どうやら何か複雑な事情がありそうだな。
「もう、誰も責めてないから、安心していいよ! いつも通りやればいいんだよ、千紗」
一方優奈は、持ち前の元気さで千紗をなだめている。こうして改めて見ると、うちのクラスって本当に凄いメンツが揃ってるな。
「う、うん……」
千紗はようやく落ち着いたものの、鼻声が交じっているのが聞こえる。もしかして泣いたのか?
それにしても、この子は昔の菜摘にそっくりだな。今の菜摘を見てると、まったく想像できねえけどな。
「ん? どうかしたの、秀和くん?」
俺の視線に気付いたか、アイドル女子三人組を見ていた菜摘がこっちを振り向いた。
「いや、なんでもねーよ。そんじゃ、そろそろ行くか。千恵子、パーティ会場はどこだ?」
アイドルのインパクトはそこそこ強かったが、肝心な委員長を忘れた覚えはねえ。俺は扉の前で待ちわびた千恵子たちを見て、質問が聞こえるように大声を出した。
「先程の寮ですよ。では皆さん、ついてきてください」
千恵子はそう言い、身体を翻して歩き出した。そして俺たちも彼女の後についていく。
俺は一番後ろから、眩しい日差しに照らされているクラスメイトたちの背中を、この目に焼き付ける。何となく、彼らには少し近付いたような気がする。
俺は右手を拳にし、それをじっと見つめている。そして自分に言い聞かせるようにこう言った。
「この絆を、大事にしないとな……」
こうして出会えるのも、何かの縁だ。俺はここで、悔いのない人生を送っていきたい。
待ってろよ、親父。あんたの言う通りに、立派な
「おい、何してるんだ秀和! 早くこっちに来るんだ!」
「ああ、わりぃわりぃ!」
仲間に呼ばれ、俺は再び足を動かせる。大切な思い出を、この心に残すために……
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【次回予告】
秀和「さすがはヘブンインヘルだな……個性派生徒、勢揃いだぜ」
哲也「そうだな。さすがに君も驚いただろう」
秀和「ああ。ところで、まさか歓迎パーティを開くなんて思わなかったぜ。俺一人のために大げさじゃねえか?」
菜摘「まあ、それはそうだけど、せっかくなんだから楽しもうよ!」
美穂「うんうん! ぱっーと盛大にやろうよ!」
千恵子「そうですね。わたくしも、久々に豪華なお料理を振る舞うことに致しましょうか」
美穂「おお、きたこれ! さては懐石料理? いやいや、ここは意外性を買って霜降りステーキとか……」
千恵子「うふふっ、ご想像にお任せ致しますね。ただし、食べ残されたのなら……後はご存知ですね?」(ゴゴゴゴゴ)
美穂「は、はひぃ……」
菜摘(九雲さん、食べ物への執念が強すぎる……!)
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