第9話 リボルト#02 新たな出会いは、そこに絆がある Part4 遊戯少年
適当にあたりを見回すと、先ほどゲームをしてるやつが俺の視線に入った。俺の存在に気付いたのか、あいつが顔を見上げて俺に
どうやら、こいつはいわゆる「一匹狼」だな。近寄りがたいオーラがぷんぷんするぜ。だが俺もゲーム好きだ。同じ趣味を持つ同士は話題ができやすいし、何よりこういう人と距離を持ちそうなやつには、逆に興味があるんだ。あっ、そういう変な「興味」じゃねえぞ! 勘違いすんなよ!
そうと決まれば、俺は
「おりゃ! これでも喰らいやがれ!」
まるでゲームのキャラクターになったつもりで、遊戯少年は周りをお構いなしに大声で叫ぶ。そしてその掛け声と共に、彼の操作しているキャラクターが持っている武器から、鋭くて刺々しい光の刃が出現し、強そうな敵をいとも簡単に切り裂いた。乾いた大地が、一瞬にして怪獣から溢れ出た血潮で赤く染まった。
なんて痛々しい光景だ。普通こういう場合では、遊戯少年の健闘を称えるべきだったが、なぜかこういう時に限って、俺は倒された怪獣の方がかわいそうに思えてきた。
「へっ、やっぱステータスMAXになると、どんだけ強そうなやつもオレの敵じゃないな! こいつもただの見かけ倒しにすぎねえってことだな~ん?」
勝利の喜悦で舞い上がってる遊戯少年は、高らかに笑い飛ばし、得意げに頭を上げた。その弾みに、俺の姿は彼の視線に入った。
「よう、やっと気付いたか」
「い、いつからそこにいた!? 人がゲームをやってるのをのぞくなんて、趣味悪いなぁ」
「お前が大技を決めてボスを倒した時だよ。それにのぞくも何も、お前があんなに声を出したから、まるで『オレのことを見てくれ』と言ってるようなもんじゃねえか」
「べ、別にいいだろう、ゲームをやるぐらいで! どうせうちのクラスに先生がいないしさ」
「まあ、それもそうか。それにしても、ずいぶんと面白いゲームをやってるじゃないか。『レース・プリジュディス』だろう、それ」
「おっ、知ってるのか、それ?」
俺がゲームのタイトルを口にしたその時、遊戯少年は急に手の裏を返し、素っ気ない目つきが一気に明るくなった。やっぱり類は友を呼ぶってわけか。
「まあな、こう見えても俺はゲームが結構好きなんだぜ。去年発売された、大型異種ハンティングゲームだろう? オンラインで友達と協力して怪獣を倒すのが魅力だけど、オフラインでも充分楽しめるからいいんだよな」
「へー、よくわかってんじゃないか。んで、おまえのレベルは?」
「そうだな……まだ25だっけ。毎日遊んでるわけじゃねえからな」
「ひくっ! オレはもうカンストしてるぜ!?」
驚きの声を上げながら、遊戯少年はゲーム機のスクリーンを俺に見せた。しかしそれを見た瞬間、俺は呆気にとられて何も言えなかった。彼のステータスは、ほとんど「9」に埋め尽くされている。よほどのゲーム廃人なんだな、コイツは。
いや、待てよ。いくらなんでもこれは不自然だ。RPGでもよくある話だけど、いくらレベルを最大に上げても、ステータスはカンストになることはほとんどない。こんなバカげた数値では、ゲームのバランスを壊してしまうことに違いない。だとすれば、こうなる可能性はたった一つ。
「お前、さてはチートを使ったな?」
俺の推測が当たったからか、遊戯少年は目を見開き、焦り出した。
「な、なぜそれを……!」
「このゲームのレベルは、最大200までだろう。チュートリアルに書いてあったはずだ。なのにお前のレベルが999になっている。チートじゃなければ、なんだっていうんだ?」
「くっ……」
論破された遊戯少年は、顔を下に向けて、沈黙状態に陥った。さすがにこのままだとまずいから、何とかして彼を励まさないと。
「でもまあ、こんな複雑なゲームにチートを使えるなんて、よほど機械に強いんだろう? これはこれで凄い才能なんじゃないかな。俺なら無理かもな、こういうの」
「な、なんだよ……人を辱めたり、励ましたりして……変なやつだな、おまえ」
「あはは、よく言われてる。そうだ、今度そのゲーム一緒にやろうぜ! チートなしでな」
「それは……ムリ」
俺の提案に、なぜか暗い声で答えた遊戯少年。震えるその音に、恐怖すら覚える。
「えっ、なんでだよ? ボス戦があっさり終わったらつまんねえじゃん」
「バカに……されたくないから」
「えっ、どういう意味だ?」
彼の意味深な言葉に、俺は話が見えなくなってきた。もしかして昔はゲームに関するイヤな記憶でもあったのか?
「前にみんなと一緒にこのゲームをやってた時、オレは弱かったから、ずっと足を引っ張ってて、邪魔者扱いされててさ」
「あー、なるほどな。確かにそれは辛えな。だからお前は、チートを使ったってわけか」
予感的中。チームの中でもっとも大事なのが、誰かの役に立つことや、誰かに必要とされることなんだよな。その安心感がないと、居心地も悪いしな。
「ああ、その通りさ。頑張って経験値を稼いでレベルアップしようとしたんだけど、なかなかうまくいかなくてさ……それに、他のゲームも面白くて手放せなくてな。でもあいつらに迷惑をかけたくないから、仕方なくチートを使ったんだよ」
「迷惑をかけたくないというより、アイツらに見返してやりたいんじゃねえか?」
「ぎくっ! なぜそれを……」
「だってさっきお前がゲームをやってるのを見て、強さの快感に溺れているにしか見えなかったから。とても心からゲーム楽しんでるように見えねえな。本当にただ迷惑をかけたくなかったら、ここで一人でやる時はチートを使わないだろう?」
「うっ!」
「それにお前、友達が欲しいだろう? 迷惑をかけたくないということは、誰かに必要とされたいってことだ。でも現実じゃなかなかうまくいかないから、ゲームの世界の中でその欲望を満足するしかない」
「がはっ! も、もうこれ以上は……」
「けどな、お前の人生は本当にそれでいいのか! 周りをよく見てみろよ! こんなにもたくさんのクラスメイトがいるのに、なんでお前は見向きもしないんだよ! このままだと、お前の人生は損するだけだぜ?」
「う……うわああああああああ!!!」
俺の畳みかけた熱い言論によって、遊戯少年は何かが悟ったみたいだ。彼の心は大きな衝撃を受け、ショックで両手を凄い勢いで上げ、体が椅子にもたれてそのまま倒れた。そして彼の手に持っているゲーム機も、ロケットのように高く飛び上がった。
おっと危ねえ。ゲーム機が壊れたら、一緒にゲームを楽しめないからもったいねえぞ。
そう思った俺は、ゲーム機が落ちる前にその運動軌跡を捕捉し、俺の頭にかすった瞬間にキャッチした。
もちろんこの場面は、周りのみんなもちゃんと見ている。無視するはずはないだろう。
「す、すごい……あの新入生くんが、あのゲームして寝る、起きてゲームするの2パターンしかないゲームくんをここまで説得するなんて……ただでさえ九雲委員長は、何度話してもダメだったのに!」
「あいつ、ずっとゲームばかりしてるから、人と話すのが苦手だと思ってたのにな……」
「やれやれ、相変わらずストレートなやつだな、秀和は」
「はいはい、秀和くんに盛大な拍手を~! パチパチパチ~」
菜摘の呼び掛けに、みんなが一斉に拍手を行った。あっという間に、静かな教室は大きな拍手の音で賑やかになった。なんか恥ずかしい気分だな。
「いててて……まさか、このオレがこんな風に言われるとは……驚いたぜ」
遊戯少年は倒れた体勢のままで、床につぶけた傷ついた頭を揉んでいる。
「わりぃな、つい頭が熱くなった。大丈夫か?」
痛そうな彼の顔を見てると、なんだか申し訳なく思ってきた。せめての罪滅ぼしでもしようと、俺はしゃがんで手を伸ばし、彼を起こそうとする。
「だ、大丈夫だ。おまえの言葉で、胸が急に暖かくなってさ……ここまでオレのことを気をかけてくれてるやつは、おまえは初めてだな。礼を言うぜ」
遊戯少年は俺の手を取り、ぎこちなく立ち上がった。最初思ってたひねくれてるイメージも、その素直な一言によって上書きされた。
「……さとし」
「ん?」
「
遊戯少年は、ぎゅっと俺の手を握りしめ、無口なイメージに反して自己紹介してきた。声のトーンは低いものの、その中に秘めている情熱は少し感じ取れる。これは、俺を友達として認めてくれた証かな? それなら大事にしねえとな。
「ああ、よろしくな、聡! 改めて、狛幸 秀和だ」
「ひで……かず……お前は、一体何者なんだ?」
「別に、ただの高校生だぜ? まあ、少し人間観察が好きところもあるけどな」
「ふん、そうか……面白いヤツだな。おまえなら、オレの運命を変えられるかもしれないぜ」
「ははっ、それはちょっとおおげさだな。まあ、悪い気はしねえけどな」
俺は聡との会話は、こうして続いていく。しかし、その
「キーンコーンカーンコーン」
声の源を探そうと天井を見たら、時計はすでに12時を指している。もうこんな時間だったのか。
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【雑談タイム】
哲也「まったく、大した奴だな、君は。まさか聡をここまで説得できたなんて」
秀和「まあ、なんつーか、ああやって時間を費やすのってもったいない気がしてさ。もっと人生を有意義に過ごしてほしいと思ったからな」
菜摘「本当、お人よしなんだね、秀和くんは~」
美穂「その怖そうな顔だけ見れば、想像できないけどね」
秀和「おいやめろ」
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