第3話 リボルト#00 静寂を打ち破る、夏休みの最終日


【前書き】

 皆さん、はじめまして。2015年から小説家活動を始めました、九十九つくもゼロと申します。

 この作品、2011年末頃にアイデアが浮かんで、そしてその間に色んな作品に触れて、やっと大体の形が構想できました。キャラクターもおよそ50以上考えてしまいました(笑)

 しかしながら、自分は怠け者なんで、本文だけがなかなか進めません……やはり、モチベーションを高めるには、もっと多くの人に読んでもらって、続きを期待してくれる方々を増やさなくてはと、そう思っております。

 というわけで、このサイトに小説を投稿することを決めました。


 この小説は、主人公の秀和くんが転校することにより、色んな人に出会って成長する物語です。途中で彼は様々な出来事によって、自分の信じてきたことを疑うことになるでしょう。それらをどうやって克服していくのか、皆さんと一緒にこの目で見守っていきたいと思います。

 何かアイデアやご意見がありましたら、どうぞ思いっきり述べてください。

 小説家としてはまだまだ未熟者ですが、何卒よろしくお願いいたします。

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 リボルト#00 静寂を打ち破る、夏休みの最終日

 The last day of summer vacation that breaks the quietness


 8月31日。壁にかかっている日捲りカレンダーは、大分破られていて、厚みもかなり削られている。夏休みもこれで終わりか。明日からまた、いつもの連中と変わらない学園生活を送ることになるのか。なんだか退屈だな。

 リビングのソファーに座っている俺は、眠気でぼんやりしている頭でそう思いながら、6面のマジックキューブを無造作にいじっている。2面は揃えたものの、ほかの面はまったく一致していなく、まるで外国人の画家が描いた抽象画のようで、内容がめちゃくちゃだ。でもまあ、暇潰しのアイテムにしては不足はないか。


 隣に同じソファーに座っている親父は、梅酒を飲みながらテレビを見ている。お袋は俺の小さい頃から家から出て行ってしまったので、ここにはいない。家出した理由は、よく分からないが。

 俺はお袋を連れ戻させようと何度も親父と相談していたが、まったく耳を貸してくれない。親父が密かに愛人でもできたのかと思っていたが、何年経っても特に変化はないようだ。


 それにしても、なんて頑固な親父だ。やけにスタイリッシュなオレンジ色のフレームの眼鏡をかけていて、40代とは思えないハリネズミを連想させるような黒い髪型をしているから、てっきり流行が好きで親しみやすい人だと思いきや、その思考回路はお袋と同じく、まるで高校の先生と同じだ。

 例えば、俺はラジカセの構造を知るべく、何万円もする家にあったやつ分解してしまい、両親に拳ドリルでこめかみをグリグリされたり、絵を描く時に、太陽を緑色に塗ったら、お袋に「センスがない」としかられてしまったりもした。

 ラジカセを分解するのは悪かったけどさ、太陽を緑色に塗って何が悪いんだよ?俺の世界だから、どう決めるのは俺の自由だろうが!


 うん、なんで太陽を緑色に塗るのかって? ああ、そういえばあれは確か夏の出来事だったか。「太陽は赤いから熱く見えるんじゃないかな」って、少しでも涼しく見えるよう、緑色に塗ったっけ。名案だと思ってたのに、まさかお袋に叱られるとは、酷すぎるぜ……


「もうウンザリだわ! こんな子供を生んでしまったなんて、私の一生の最大の過ちミステイク よ! こんな家、出て行ってやる!」

 お袋があの時に言った言葉、今になっても耳のそばに響いてくる。今思えば、お袋はこの家から出ていったのは、もしかして俺のせい? まさかな。俺が理由なわけないだろう。あんなデタラメを認めるなんて、以ての外だ。


「ヘブンインヘル私立学校、あなたの子供を理想通りに育て上げます! どんな落ち零れでも、3年間で絶対に優秀な人材にしてさしあげます!」

 やけに大きくてうるさい音が、テレビから響く。ふ~ん、学校のCMか。どうせ聞こえだけがいいだろうが。生徒の成績を上げる学校、どこにもあるじゃねえか。わざと小学生レベルの問題を作って、合格率を上げる学校もあるし。


「しかしながら、当校の凄さは、ただ生徒の成績を上げるだけではありません!例えば、足が不自由で歩けない生徒も、このヘブンインヘル私立学校にお任せください! なんと3年後あなたの子供は、まるでアスリートのように生き生きして帰ってきます! あるいは、不良だった生徒を、素直な好青年にすることもできます! 全ては、保護者の方々の思うままに!」

 おいおい、いくら凄い学校でも、人の体調や性格を変えられるわけがないだろう。こんなふざけたCMを見て、ホイホイと自分の子供をこんなバカげた学校に就学させるわけが……


「この学校に行くんだ、秀和ひでかず


 ………………ゑっ?

 俺は親父のリアクションに驚き、危うく手中のマジックキューブを落とすところだった。


「お……親父、今なんつった?」

 眠気が一気に覚めた。まさかあの誰よりも固い頭を持っている親父が、そう簡単に何の根拠もないCMを信じるなんて。今の俺は、一体どんな顔をしているんだろう。


「聞こえなかったのか、お前をこのへぶんなんとか学校に転校させるって言っているんだ」

 親父の真剣な眼差しは、俺の疑問を槍のように貫いて砕いた。

 ……この事態から俺が纏めた結論はたった一つ。

 親父は、本気マジだ。


 いや、待てよ? これはきっと何かの間違いだ。例えば、エープリルフールの冗談だったりして……って、今は8月だし! いやいや、それ以前の問題だ。そもそも親父は、冗談なんて言うはずがない。

 そうか、これは夢だ! さっきからずっと眠いと思ってたし、きっとこれは夢に違いない。ほら、こうやってマジックキューブを頭にぶつけると、きっとこの悪夢から覚められる!

 

 そうと決まれば即行動。せーの! どっかーん!

 痛みが頭から全身に拡散し、マジックキューブのブロックも爆発したかのように飛び散っていく。

 いてっ! 夢じゃなかったのかよ、これ!


「どうした秀和。興奮しすぎて頭がいかれたのか」

 おいおい、こんな冗談を言うなんて、親父らしくねえよ。それに、頭がいかれたのは、親父の方だっつーの!

「俺のセリフを予約すんなよ。親父こそ、頭がいかれたんじゃねーのか? なんでいきなり転学するなんていうんだよ? 今の学校はよくねーのかよ?」

 親父に質問攻めをする俺。展開が唐突すぎて、もう何がなんだか分からない。たとえ近未来のロボットでも、この状況を理解することが不可能に近いだろう。


「私とお前の母はずっと昔から、お前の考え方をどうかと思っている。ラジカセを分解したり、太陽を緑色に塗ったり、高い限定版のロボットを余所の子供ジグソーと交換したり……」

 あー、やっぱそれかよ。ある程度予想はしていたが、まさかそこまで俺の黒歴史を暴いてくるとは! 息子の気持ちを察しろよ、このバカ親父!


「もうやめろよ親父、クラスメイトたちみんな に知られたら恥ずかしいじゃねーか」

「何を言っている。ここには私とお前二人しかいないぞ。またその『へんてこ思考』が働いているのか。本当、感心しないな。どうしてお前はいつもこうなんだ?ほかの子供だと、ちゃんと親の言うことを聞くし、1足す1は2と答えるのに……お前と来たら、はあ……」

 親父はそう言い、大きな溜息を付く。そして全ての真相を知るためか、ついに親父は俺に問いつめる。


「答えるんだ秀和。どうしてお前はいつもこんな常識離れしたことしか考えないのだ?」

「常識にとらわれるのがイヤだから」

 親父のくだらない質問に、俺は当たり前のように即答した。この間は1秒も経たなかった。


「だからそういう考え方はやめなさいって、何度も言ったじゃないか。そんなことをしたら、ただ疲れるだけだぞ」

「なんで? 俺は楽しいと思うぜ」

 親父の反論を、俺には理解できない。むしろ親父のような単調すぎた考えは、退屈すぎると思ってやまない。

「……お前はまだ子供だから分からないのだ。お前も大人になったら、いずれ分かるだろう。やはり、お前をあそこに転校させなければならん」

 くそ、俺は行きたかねえよ! 何とかして親父を諦めさせないと!

「けどよ、今日はもう8月31日だぜ? 明日からもう授業が始まるぞ?」

 入学手続をするのに、何日もかかるはずだ。そして書類を揃えるのも決して楽じゃない。あれこれやっていたら、恐らく俺は授業についていくのが難しい。さすがに親父も、それぐらいは分かっているだろう。

 そして俺の指摘を聞いた親父は黙った。へへ、さすが俺!


「それなら心配は要らん。そこの先生の一人は私の知り合いで、既に転学の手続きを済ませておいた」

 なぬ!? そんなの初耳だぜ、おい!

「あ、あのさ、親父……」

「ん? 何かね?」

「もしかして……酔っ払ってんじゃないのかな? あ……あはははは……」

 動揺している俺は、心細く苦笑して誤魔化そうとしている。梅酒ぐらいで醉うわけがないって、分かっている。水割りなら尚更のことだ。


「まだ疑っているのか。いいだろう、これを見せてやろう」

 親父は黒いファイルから、一枚の紙を俺に渡す。

 それを取ってみると、全身にかつてない悪寒が走り、鳥肌が立つ。

 そこには、「ヘブンインヘル私立学校入学許可証」と大きな字が書いてある。そしてすぐ近くに「狛幸こまゆき秀和ひでかず」と、俺の名前が書かれている。それだけじゃない。顔写真まで貼られている。これなら「同じ名前の別人」で誤魔化せなくなってしまう。

 どうやら、親父は本気で俺をあそこに就学させる気だ。


「というわけで、さっさと明日の支度をしろ。登校の初日にヘマをするわけにはいかないからな」

 へっ、でも親父、あんたはとんでもねえミスをやらかしたぜ! こんな大事なものを息子の手に渡すなんて、油断極まりないぜ! この紙が俺の手に渡った以上、何をしようが俺の自由だ!

 俺の心理深層に潜む悪魔が、「やるなら今しかない」とそそのか している。よし、さっそく破いちまえ!


 親父の言う通りにするのがイヤで対抗したいのか、転校に対して嫌味が差しているのか、俺の両手はまるで高効率のシュレッダーのように、迷わず許可証を紙吹雪にしてやった。

 白い紙の破片が、雪のように舞い散っている。完全に修復することはほぼ不可能だろう。

 どうだ親父! これでどうしようもねえだろう……あれ?

 

 親父の手に、もう一枚の許可証を持っていやがる!

 ど……どういうことだ? 俺は確かに許可証を破いたはずだぞ! それなのに、なぜ……はっ、まさか!

「こういうこともあろうかと思って、予めコピーしておいたのさ。お前が破いたのは本物じゃない」

 くっ! やはり俺の手が先に読まれていたのか!


「大人しく行くんだな、へぶんなんとか学校に」

 親父の右手が、明らかにそのポーカーフェイスとは似合わないピースサインを作っている。そんなに嬉しいことなのかよ! こいつ、いつもの親父じゃねえ!

 絶望した俺は、両手で頭を抱える。やはり行くしかないのかよ……

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