第3話 Firebug
俺は珈琲を飲みながら雑踏を眺めていた。じきに黄昏時だ。さてどうしたものか。今から車で市外へ行けば、マジックアワーに間に合うな。街中で見る夕空も悪くはないが、久しぶりに美しい夕焼けの空模様を見に行こうか。
そんな事を考えていた時、道路を挟んだ向こう側の通りを見知った顔が通り過ぎて行く。途端にそわそわと落ち着かない気分になった。深く息を吐く。落ち着く為にもう一杯珈琲を飲もうか。しかし、マジックアワーに間に合わないかも。美しい夕焼け空も捨て難い。一秒一秒が速く過ぎていくように感じられる。
駄目だ、もう我慢出来ない。俺は席を立つと会計を済ませ店を出る。雑踏の中を小走りに進むと目当ての後ろ姿を視界に捉えた。我ながら不思議だ。こういう時どうして無数の顔の中から、目当ての顔だけが目に入るのだろう。横顔が見えた。立ち止まった。交差点を渡ってこちらに来るつもりだ。
俺は足を緩めて歩調を合わせる。ちょうど交差点を渡りきったところで鉢合わせた。
「オオカミさんじゃないか。こんな所で会うなんて、偶然だな。」
「やあ、君か。ふふ、偶然だね。」
俺達は並んで歩き続ける。が、オオカミさんは何やら笑いを堪えているようだ。
「どうしたんだ、オオカミさん。何か可笑しいか?」
「ふふふ、いや君の様子がね。必死に追いかけて来て、偶然を装っているところがちょっと可笑しくて。」
「俺が?必死に?」
「惚けても無駄だよ。私はタイリクオオカミのネイティブフレンズだよ。君が追いかけて来ているのは匂いで分かっていたよ。」
悪戯っぽく笑みを浮かべるタイリクオオカミ。その顔を見るとまた落ち着かない気分になった。ばつの悪さもあって俺は軽くそっぽを向く。彼女は声をあげて笑った。
不意に彼女が立ち止まる。遠くでサイレンが鳴っている。
「…火事か。ここのところ多いな。」
彼女が俺の腕にしがみついてきた。
「オオカミさん?」
衣服越しに彼女の体の感触が、それにいい匂いが…
だが即座に俺は我にかえった。彼女が震えている。
「どうした、タイリクオオカミ。大丈夫か?」
「ああ、済まない。もう暫くこのままでいさせてくれないか。」
いつもの飄々とした彼女らしくない態度に俺は困惑したが、そのまま彼女の好きにさせる事にした。
大分暗くなって来た。もう日が落ちたろうか。サイレンの音ももう聞こえない。彼女は俺から離れた。
「落ち着いたか、オオカミさん。」
「ああ。ありがとう、悪かったね、急にしがみついたりして。」
正直な所、もっとくっついてくれても良かったんだが。
その時、彼女のお腹からキュルルという音が聞こえた。一瞬堪えようとしたが、俺は吹き出してしまった。
「ひどいな、笑うことはないだろう。」
「ははっ、ごめんごめん。どこかで一緒に食事しよう。俺が奢るよ。」
「いや、さっきのお礼だ。私に奢らせてくれ。」
俺達は雑踏の中を歩き出した。
ヒトとフレンズが共に生きる街ジャパリポリス
無数の出会いと別れが交錯し
数多の笑顔と涙が生まれるこの街で
人々は生きていく未来へと繋がる今日を
インターホンの音で私は目覚めた。カーテンの隙間から日が差し込んでいる。もう大分日が昇っているようだ。インターホンを確認すると見知った顔が映った。丸眼鏡を掛けた人の良さそうな顔。
「お早うございます、オオカミさん。もう、お昼前ですよ。全く。」
ドアを開けるなり呆れたような口調が耳に入ってくる。
「お早う、アリツさん。」
「昨日は徹夜ですか、それともまた夜遊びですか。御飯作りますから、顔を洗って来て下さい。」
そう言って彼女はキッチンに向かう。
顔を洗って戻って来ると、ベーコンの焼ける香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。
やがてテーブルには、トーストとコーンスープ、ベーコンとソーセージ、サラダとピクルスが並ぶ。
私にとっては遅い朝食、彼女にとっては早めの昼食をとる。昨日の一部始終を私は語った。
「噂の彼氏と、ふうん、なるほど、それで…」
彼女が目を細める。赤い舌が上唇を舐める。
「その後、日が昇っているのにも気付かない程、夢中でお熱い一夜を過ごしたと。」
「アリツさん!彼とはそんな関係じゃ無いよ!」
「もう、冗談ですよ。」
全く、彼女ときたらどうしてこう、恋愛というかそっち方面へと話を持っていきたがるんだ。
笑っていた彼女が不意に真顔になった。
「ところで、さっきの話ですけどまた発作が出たんですね。」
「ん、ああ。でもすぐに治まったよ。心配しないでくれ。」
私は笑みを浮かべてみせる。
「最近よく眠れていますか?もし、つらいようなら無理せずに言って下さいね。」
「ありがとう。でも、本当に大丈夫だよ。」
「もうじきですね。お二人の命日。」
「ああ。」
束の間、私達の前を静寂が通り過ぎる。
「でも、安心しましたよ。今年はお二人に報告する事が増えましたし。」
再び彼女が笑顔を見せる。
「オオカミさんに素敵なボーイフレンドが出来たって。きっと二人も喜びますよ。」
「アリツさん、彼とは…」
「友達、でしょう?」
「ああ、友達、だよ…」
キッチンで後片付けをする彼女を尻目に私は寝室に戻る。机の上の写真立てを手に取る。在りし日の両親とかつての私が写っていた。無邪気に笑う私が。
ここに来るのも随分と久し振りだな。編集者と作家達の話し声、漂う紅茶や珈琲の香り。軽く感傷に浸っていると聞き覚えのある声が響いて来た。
「智也さんじゃないですか。ここで何してるんですか?」
顔を見ずとも分かる、アミメキリンだ。
「待って!」
口を開きかけた俺を右手で制し彼女はお馴染みの口調で話し始めた。
「名探偵アミメ・クリスティの孫、このアミメキリンには全てお見通しですよ!智也さん、あなたは…、先生をストーカーしに来たんですね!」
「………」
「何て恐ろしい…、先生への歪んだ愛情があなたを狂わせてしまった。ヤバイと思ったが
周りの編集者達が何事かとこちらを見るが、アミメキリンだと分かった途端に皆平然と仕事に戻って行く。もう一種の名物と化しているのか。
「俺は仕事で来たんだよ。」
ま、ここに来ればオオカミさんに会えるかも、という期待が無かった訳じゃないけどね。
「仕事?どうして出版社に?あなた、ウソをついていますね!」
「待ちなサーイ!」
もう一つ聞き慣れた声がして、軍服姿のフレンズがズカズカと靴音を響かせ現れた。
「無礼モノ!コチラにおわすお方をドナタと心得る!オソレ多くも作家の原田テツヲ先生に在らせられるゾ!頭が高イ!控えおロウ!」
やや片言で時代がかった台詞を言うのは俺の担当編集を務めるハクトウワシだ。彼女は俺の隣に並んで立つと腕組みをしてアミメキリンを睨みつける。
「原田テツヲ先生ですって!?十八歳の時に『妖女ミライの呼び声』でデビューして以来、『カコへの扉』や『ヘラジカの突きを喰らうライオン』、『私が殺したフレンズ』と話題作を次々と発表して一躍人気作家になった、あの原田テツヲ先生!」
アミメキリンは驚きのあまり目を白黒させている。
「フハハ、どうだスゴイだろう!」
…いや、凄いのは俺なんだけどね。
一段落した所で俺とハクトウワシは空いた席に座って打ち合わせをする。何故かアミメキリンも同席している。お前、自分の仕事はいいのか?
それにも一区切りついたので、俺はおもむろにアミメキリンに尋ねてみた。
「それで、オオカミさん、ワオンソン先生は今日はどうしてるんだ。彼女の方はいいのか?」
またストーカー呼ばわりされるかとも思ったが、アミメは素直に答えてくれた。
「先生は今日は出かけてますよ。…ご両親の命日ですから。」
「命日…、墓参りか?」
意外な答えだ。彼女はネイティブフレンズだから、両親とは育ての親に当たる人だろう。しかし、既に他界していたとは。
「ええ、三年前の事件で亡くなられたんです。私も一緒に行くつもりだったんですけど、こっちで仕事があるので…」
「三年前の事件って北部環境保護区のあれか?」
「そうです。先生のご両親、望月夫妻はそれに巻き込まれて。」
望月?その名前は…
「望月と言ったな。もしかして絶滅生物研究所の望月和彦博士のことか?」
「知ってるんですか?先生のお父さんのこと。」
「何だって!?」
望月和彦…望月のおじさん!
俺はおぼろげな記憶を辿った。幼い頃に聞いたあの言葉…
(おじさんは君のお父さんとは一番の友達なんだよ。)
なんて事だ、オオカミさんが望月のおじさんの娘だったなんて…
目的地へ向かう車の中で、助手席に座るハクトウワシはさっきからノートパソコンをいじっている。
俺達はオオカミさんがいる墓地を目指している。アミメキリンは流石に仕事を放っぽり出してまでついては来なかったが、どういう訳かハクトウワシの方がついて来た。
「漫画家のワオンソンことタイリクオオカミは六年前に北部環境保護区で発見、保護されたフレンズです。養父は望月和彦、同区内にある絶滅生物研究所の主任研究員。」
ハクトウワシが流暢に告げる。片言のおかしなガイジン語を喋ったかと思ったら…。今更だが、どことなくこいつにもアミメと同じにおいを感じるぞ。
「…六年前と言ったら確か、大規模な山火事があったんじゃなかったか?」
「Yes、山火事によって野生動物にかなりの被害が出ています。」
もしかすると、その時にタイリクオオカミの本当の両親も?
もしそうなら、彼女は二度も家族を失った事になるのか…
「それにしても、よくそんな詳細な個人情報が引き出せるな。」
「フフッ、動物環境省のデータベースをハッキングしただけデス。」
「犯罪だろ。」
「バレればネ。」
…聞かなかった事にしよう。
そうこうしているうちに目的の墓地に着いた。
「ワタシがタイリクオオカミを見つけマス!ドロ船に乗っていて下サイ!」
そう言うなり俺の返事も待たずに、ハクトウワシは宙に浮き上がると飛んで行ってしまう。目的の墓は三年前にも訪れている。タイリクオオカミもそこにいるだろうから、わざわざ探す必要は無いんだが。やはりアミメ類だな。
閑静な墓地の中を歩いて行く。やがてオオカミともう一人のフレンズが目に入る。
「やあ、オオカミさん。度々急な事で済まないな。」
「電話で聞いて驚いたよ、君が急に墓参りをさせてくれだなんて。」
オオカミさんの脇にいたフレンズが自己紹介をする。
「初めまして、オオカミさんの友人のアリツカゲラです。アリツと呼んで下さい。」
「彼女は私のマネージャーで、アシスタントも務めてくれているんだ。」
挨拶を交わした後、俺は望月家の墓に手を合わせる。
「お久し振りです。望月のおじさん。まさかこんな形であなたの所に来る事になるとは思いませんでした。」
「アミメ君からの電話では、君は私の父と知り合いのようだと聞いたが…」
「俺の父さんの親友だった人だ。俺はよく覚えていないんだが、子供の頃に会った事もあるよ。」
「そうなのか。」
「すごい…」
呟いたアリツカゲラの顔を俺とオオカミさんが見つめる。
「済みません。でも、こんな事が本当にあるんですね。何て言うか、お父さん達の縁がお二人を巡り合わせたような。」
そう言う彼女の目が潤んでいる。
「そうだな、不思議な縁もあるものだ。…事実は小説よりも奇なりか。」
「うん。現実の方がずっとミステリーだ。」
静かに佇む俺達の間を涼やかな風が通り過ぎていった。
そういえばハクトウワシはどこに行ったんだ?
三人で談笑しながら駐車場まで戻って来た時だった、俺の頭にその疑問が湧き上がった。
するとサイレンを鳴らして一台のパトカーが駐車場に入ってくる。
まさか!ハッキングがバレたのか?ハクトウワシの奴、逃げたな。
パトカーから降りて来たのは、セルキュウビの事件の際に会った刑事だ。
「皆さん、この近くで不審な鳥のフレンズを見掛けませんでしたか?」
不審な鳥のフレンズ…、やはり!
「貴女はリカオン刑事じゃないか。」
「貴女達は…、奇遇ですね。いや、それよりも。私は今、市内で起こっている連続放火事件の容疑者らしきフレンズを追っているんです!」
最近妙に火事が多いと思ったが、放火だったのか。…いや、流石にハクトウワシじゃないよな。
「Shiiiiit!」
絶叫と共に何かが近くの樹にぶつかる。枝が折れ葉が散る音がする。今の声はハクトウワシ!俺は即座に彼女のもとに駆け寄ろうとするが…
「伏せろ!智也!」
「うおっ!?」
身を伏せるとほとんど同時に、頭の上を何かが凄まじい速さで翔け抜けた。
そいつは空中で静止するとゆっくりと地面に降り立つ。
薄緑色の服に赤い瞳。あの姿はハヤブサ?ハヤブサ型のセルリアン、アミメ流に言えばセルハヤブサか。
「警察だ!両手を頭の上で組み、その場に伏せろ!」
拳銃を構えたリカオン刑事が叫んだ。だが、セルハヤブサが僅かに身を屈めた次の瞬間には、彼女は地面に仰向けに倒れていた。
速過ぎる…!本当に目にも止まらんぞ。
「オオカミさん!無茶はやめて!」
「タイリクオオカミ!君でも無理だ!速さが足りない!」
ハヤブサに向かって歩む彼女に俺とアリツカゲラが叫んだ。俺達の制止の声など聞こえないかのように彼女はハヤブサに近付き、挑発するように両腕を大きく広げて見せる。無防備な彼女にハヤブサが猛然と襲いかかった。
言わんこっちゃない。流石のタイリクオオカミも奴の速さの前には、反撃どころか身を守るので精一杯だ。待ってろ、こうなったら俺が盾に…
「タイリクオオカミ!?」
思わず叫んでいた。彼女は突如棒立ちになり、目を閉じる。正気か?
ハヤブサが迫る。駄目だ、もう間に合わない!アリツカゲラの悲鳴が響き渡る。
一瞬何がどうなったのか分からなかった。
身を屈め右肘を突き出したオオカミ。
身体を折り曲げ驚愕と苦悶の表情を見せるハヤブサ。
「す、すごい。」
「Unbelievable!」
リカオンとハクトウワシの声。
嘘だろ。あの速さを相手にカウンターが極まるのか。
あの満月の夜の出来事が思い浮かぶ。俺はとんでもないフレンズに喧嘩を売っていたのでは…
タイリクオオカミが一気に攻勢に出る。完全に攻守が逆転した。耐えかねたハヤブサは上空に舞い上がる。怒りか痛みによるものか、歪んでいた顔に不敵な笑みが浮かぶ。その瞳が妖しい光を帯びる。
何だ?ハヤブサの身体から鱗粉のようなものが飛び散り地面に触れ…
視界が朱に染まる。火だ、赤くうねる炎、その中でキラキラと細かい輝きが見える。これが放火魔の正体か。
「オオカミさん!」
アリツカゲラの声でオオカミの方を見る。彼女の様子がおかしい。
「あ、あ…、あああ…」
燃え盛る炎を前にして、彼女は両腕で自身を抱くようにして震えている。
ネイティブフレンズは動物だった時と同様に火を怖れるものが多い。だが彼女のは明らかに過剰な反応だ。彼女が俺にしがみついてきた時のことを思い出した。加えて車の中でのハクトウワシの話。
俺は駆け出した。彼女の肩を揺さぶる。
「タイリクオオカミ!大丈夫か!しっかりしろ!」
だが彼女はその場にしゃがみ込んでしまう。
見上げるとセルハヤブサは上空から俺達を見下ろし嘲笑している。
何が可笑しい…!俺は奴を睨みつける。
奴が急降下して来る!俺はタイリクオオカミをかばうように抱きしめた。
「Justice kick!」
ハクトウワシの蹴りが横から奴の身体に突き刺さる。
「Hey!さっきので終わりだと思わないことね!ここからが正義の大逆転!ユクゾ!」
二つの影が空中を舞い激突する。
「こちらはリカオン!連続放火事件の犯人と思しき、フレンズ型のセルリアンと交戦中!至急応援求む!場所は…」
リカオンは無線で本部に連絡している。
俺とオオカミのもとにアリツカゲラもやって来た。
「オオカミさん!落ち着いて、深呼吸しましょう。さあ。」
深呼吸を繰り返すオオカミ。幾分落ち着きを取り戻したようだ。
「ありがとう。もう大丈夫だ。」
立ち上がったものの膝が震えたままだ。
「とても大丈夫には見えないぞ。もう無理はよせ。じきに警察の応援が来る。」
しかし、彼女は制止を無視して歩き出す。
「セルリアンは私が倒す。例えこの体がどうなろうと、刺し違えてでも!」
「オオカミさん!」
アリツカゲラの平手がタイリクオオカミの頰を打った。
「あなたはどうして、そうやって一人で抱え込んで…」
彼女の目には涙が浮かんでいる。
「タイリクオオカミ、そんな哀しいことを言うなよ。彼女も俺も、君に生きていて欲しいんだ!」
俺はタイリクオオカミを真正面から見据える。
「ひいばーちゃんは言っていた。傷付いたなら互いに支え合えばいいと。…一人で背負おうとするな。皆で背負えばいい。俺も背負うよ。だから、一緒に。」
タイリクオオカミの体の震えが治まり、瞳に確かな輝きが見える。俺はアリツカゲラに頷いてみせる。
彼女はまだ何か言いたそうだったが頷いてくれた。
俺とタイリクオオカミは並んで立つ。目の前ではハクトウワシがセルハヤブサと戦い続けていた。
「俺が奴の動きを止める。後は頼むぞ。」
「出来るのか?」
「やれるさ、俺を信じろ。」
タイリクオオカミの手を強く握る。
「ふふ、頼もしいね。君を信じるよ。」
彼女も強く握り返してくる。
「行くぞ!」
「ああ!」
俺達は歩き出す。ひいばーちゃん達がかつて歩いていたように。大地を踏みしめて。
ハクトウワシとセルハヤブサが離れて着地する。ハクトウワシは傷だらけだ。善戦しているが、ハヤブサの方はダメージが回復し速さを取り戻しつつある。やはり、動きを止めなければ。
俺は大きく息を吸い込み、雄叫びをあげる。空気が震えセルハヤブサの身体を揺さぶる。
ハヤブサは飛び上がろうとするが動きが緩慢だ。自身の異変に気付いてその顔が再び驚きに歪む。
そこにオオカミが仕掛ける。素早い動きで間合いをとり拳と蹴りを繰り出す。
「Justice punch!」
ハクトウワシも加わり、左右からハヤブサを攻撃する。
ハヤブサの身体からまたもや鱗粉が飛び散り炎が上がる。タイリクオオカミが後ずさる。その背中を俺は押し返してやる。
「大丈夫だ!俺が傍についているよ。タイリクオオカミ。」
タイリクオオカミが頷いて自ら足を踏み出した。
「Me too!」
ハクトウワシも隣に立つ。
「行くぞ!タイリクオオカミ!ハクトウワシ!」
「任せろ!」
「OK!」
ハクトウワシが宙を舞う。
「Hurricane bolt screw!」
急降下してキックを放つ。
体勢を崩したハヤブサに俺はアッパーカットを食らわせ、膝蹴りを放った。
タイリクオオカミが怒涛の勢いで拳を繰り出す。大きく振りかぶった右の手刀がセルハヤブサの身体を貫いた。
「Say Bye‼︎」
ハクトウワシの掛け声と共にセルハヤブサの身体が砕け散った。
数日後、俺達はタイリクオオカミの自宅でホームパーティーを開いていた。
「パパ直伝のアップルパイデース、冷めないうちにどうゾ。」
「わあ、美味しそう。ハクトウワシさんのお父さんは料理が得意なんですね。」
「イエース、パパは今はコックをやっていマース。」
ハクトウワシとアミメキリンはすっかり意気投合している。やはり似た者同士。
俺はふとタイリクオオカミの姿が見えないのに気付いた。
開いていたドアをノックする。彼女が振り向いた。
「入ってもいいかな、オオカミさん?」
「ああ、どうぞ。」
彼女は手に写真立てを持っている。
「その写真は?」
「両親のものだよ。」
覗き込むとそこには誠実そうな男性と朗らかな雰囲気の女性、そして屈託の無い笑顔を見せるタイリクオオカミの姿があった。
「両親の遺品はこれぐらいしか残っていなくてね。」
そう言って彼女は寂し気に笑う。俺は何か言葉をかけようと思ったものの、結局何も浮かばなかった。
「いや、湿っぽくなってしまったね。せっかくのパーティーなのに。」
俺達は皆のいる居間に向かう。
「ところで君とあのハクトウワシとはどういう関係なんだい?」
「君とアミメキリンと同じだよ。」
「ふうん。私とアミメ君はプライベートでは友人なんだが。すると、君達も友人、あるいはもっと親しい仲なのかい?」
「おいおい、何だかアミメキリンみたいだぞ。」
「私がどうかしたんですか。」
噂をすれば何とやらだ、本人が現れた。
「ふ、二人とも、今寝室から出て来ましたよね!ま、まさか、既にそういう関係だったなんて…」
そんなアミメキリンを横目に俺はオオカミさんに告げる。
「オオカミさん、やっぱり友人は選んだ方が良いと思うよ。」
「うーん、完全には否定出来ないのがつらいところだ。」
「あらあら、お二人ともお盛んですねえ。」
「アリツさんまで、やめてくれないか。私達はそんな関係じゃないって言ってるじゃないか。全く。」
「じゃあ、どんな関係なんですか?」
「どんな関係かって…」
「改めて聞かれると…」
俺達は顔を見合わせる。
「Partner!」
全員が声の主、ハクトウワシを見る。
「二人は良い
相棒か。それも良いな。
俺とタイリクオオカミは顔を見合わせ笑い合った。
その夜、俺は車の中で昼間のタイリクオオカミの言葉を思い返していた。ふと思い付いた俺は携帯電話の番号をコールする。夜更けだが多分大丈夫だろう。
「ああ、もしもし、俺だよ。うん、まだ起きてた?うん、それで、ああ、元気でやってるよ。そう、それで、えっ?こいび…いや、ええと、友達なら出来たよ。そうだよ。いや、だからね、そうそう、分かったよ。分かったから。それよりも、聞きたい事があるんだ。」
やれやれ、どうにか用件は伝わったようだ。
「うん、うん。じゃあ、頼んだよ。うん、分かった。それじゃあ、おやすみ。母さん。」
正義のフレンズ、ハクトウワシよ!私の活躍見てくれたかしら。ところで、みんなはこんな話を知っているかしら?世界を守る特別なフレンズ。その名もGuardian Animals!きっと強くて正しい、素晴らしいフレンズよ!私も正義のフレンズとして頑張らないと。みんなも困った事があったら私を呼んでね!それじゃあ、次回もLet's Justice!
次回 『Letter from father』
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