竹取ルール    <昔話パロディ>

竹取ルール

 今は昔、竹取おじさんと呼ばれる竹をこよなく愛する男がいました。

 おじさんは竹で何でも作りました。住んでる家も竹。家具も竹。枕も竹。食器も竹。好物は竹の子の煮物。嫁の名前がお竹さん。着る物以外はぜんぶ竹でした。


 そんな竹取おじさんが、今日も今日とて竹を取りに行くと、根元が光る竹がありました。竹とともに人生を歩んできた竹取おじさんでしたが、そんな竹は生まれてはじめて見ました。そっと近づいて眺めると、竹の一節が内側から発光して、中が透けて見えるのです。光る節の中には、なんと身長10cmくらいの可愛い女の子が坐っていました。


「わしんとこの竹林にいたんだから、この子はわしのもんだ!」


 竹取おじさんは女の子をダッシュでお持ち帰りして大事に育てました。


 かぐや姫と名づけられた女の子は、すくすくと美しく成長し、人並みの大きさになると同時に思春期を迎えました。


 竹から生まれた美少女の噂は世間中に知れ渡り、ひと目見たいを通り越して、嫁に欲しいと願うケダモノ野郎どもの大群が、竹取おじさんの家に押し寄せ、家の前は連日ごった返す騒ぎとなりました。

 竹取おじさんはその技を駆使して、家の周りに高い竹垣を巡らせたり、竹の鳴子を仕掛けたり、竹槍を突き立てた落とし穴を掘ったり、竹で造った絡繰り人形に弓矢を持たせて侵入者を狙い撃ちさせたりしました。


 そんな騒ぎがピークに達した頃、やんごとなき身分の皇子様五人から、かぐや姫に正式な縁談が持ち込まれます。有象無象はこの段階で諦めて去っていきました。

 五人は人柄も財産も将来性も遜色つけ難く、竹取おじさんは喜んで、かぐや姫にどれでもいいから決めるようにすすめました。


 するとかぐや姫は「そんなのドラマがないからイヤ」と横を向きました。


「ドラマって、なんじゃ?」 竹取おじさんは訊きました。


「親を殺されて憎み合う仇同士が恋におちるとか、無人島に不時着した飛行機の生き残りがサバイバルの中で相手を好きになるとか、記憶をなくしたわたしが元の婚約者と恋をするとか」


「どこで聞いてきたんだ、そんなシチュエーション」


「せめてあたしが転校生で、パンをくわえて『遅刻、遅刻ぅー』って走ってると、街角でドシンとぶつかるくらいしてほしい」


「無理をいうもんじゃないよ、この子は」


「そしたら結婚しないもん」


 ぷっと膨れたかぐや姫は、それ以上竹取おじさんの話を聞こうとしませんでした。



 竹取おじさんは仕方なく、五人の皇子様を集めて言いました。


「かぐや姫は結婚相手にドラマを求めております。知らない国へ行って現地の人と触れあい、死ぬかも知れない冒険の末に珍しいものを手に入れて帰って来て頂きたい。ただし、やらせは無しです」


 この無茶振り企画が後の世の「世界の果てまで……」なんとかいうテレビ番組になったのは御存知の通りです。


 竹取おじさんは五人の皇子様にそれぞれ、お釈迦様の聖杯、蓬莱山の金銀珠の枝、サラマンダーの皮、ドラゴンの五色の珠、燕の子安貝をリクエストし、自撮り映像付きで一番最初に持って来た方にかぐや姫のお婿さんにしますと約束したのでした。


 しかしリクエストされた品はどれも都市伝説以上の幻であったため、成功者は一人もいませんでした。


 この無茶なリクエストでゲームを無効にする裏技は「竹取ルール」と呼ばれて後世に伝えられましたが、近代に入って「借り物競走」という安易なゲームに姿を変え、「校長のカツラ」などに本来の精神が垣間見えるばかりとなりました。

(ごく最近、某大国の花札とかカルタとかいう大統領が密かにこのルールを習得したという情報もあります)


 その後、かぐや姫はみかどのパワハラで無理矢理に嫁にされかけましたが、竹取おじさんが大量に拵えたタケコプターをつけた有志のエキストラによって、月の使者が迎えに来たと一芝居打って帝を諦めさせましたとさ。


<後日談>


 かぐや姫は後に、鬼ヶ島に行って宝物をもらってきたというダイナミックな冒険で見事「竹取ルール」をクリアした青年と恋をして結婚したということです。めでたしめでたし。

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