妹は嘘がつけない   <コント>

津雲家 兄と妹の会話


<出演>   津雲つくも すばる  中学二年の兄  特技・土下座

       津雲 つぼみ  小学五年生の妹  特技・フードファイト




兄・すばる 「つぼみ! 今から訊く質問にすべてYESで答えろ!」


妹・つぼみ 「すばピョン、何がはじまったの?」


昴 「兄ちゃんと言え。昨日、おばあちゃんと一緒にテレビを見てたらな」


つぼみ 「テ、テレビの話題を振ってくる?」


昴 「ビックリしたさー。嘘ついたゲストの顔がアッチャコッチャになった!」


つぼみ 「アッチャコッチャって、なに?」


昴 「おっと。この娘御むすめごはアッチャコッチャを、知らない?」


つぼみ 「中国語?」


昴 「昭和でしょうが。さんまさんもよく言うでしょうが!」


つぼみ 「知らないし!」


昴 「アン・シンメトリーいずアッチャコッチャ。右と左がちがうの! アッチャコッチャ! OK?」


つぼみ 「おうけい牧場」


昴 「ナイス! 嘘をついたとき、人間の顔って右と左が非対称に動くんだって!」


つぼみ 「ほほう。それで、顔がアッチャコッチャか?」


昴 「嘘ついたゲストの、片っぽの眉だけ、ピヨッと動いたんだぜ!」


つぼみ 「それってさ、うさん臭い兄ちゃんがババ抜きするやつでしょ?」


昴 「無礼者! あの人はババ抜きの神だ!」


つぼみ 「あの神様、勝つと、すっごい嬉しそうに喜ぶけど」


昴 「とにかく、あれがやりたいの!」


つぼみ 「ババ抜きが?」


昴 「顔やがな!」 


つぼみ 「顔て?」


昴 「嘘ついて、アッチャコッチャんなったお前の顔が見たいと言っとるんだ!」


つぼみ 「ええ~!」


昴 「さあ見せろ! 嘘に醜く歪むおまえの顔を!」


つぼみ 「歪んでるのは、あんただ!」


昴 「だまらっしゃい!」


つぼみ 「昭和が兄にとりついている……」


昴 「いいか? 今から私が質問をするから、おまえは何を訊かれても、イエスと答えるのだ。わかったな? いくぞ!」


つぼみ 「帰りたい。あ、ここ自宅だった」


昴 「では、第1問。世界で一番ブサイクなのは、あなたですね?」


つぼみ 「なんだとお!」 思いきり殴り倒す。


昴(床に這いながら) 「痛いじゃないか。イエスと言い給え。そこでイエスと」


つぼみ 「言うか!」


昴 「めんどくさい奴だな。では質問を変える」


つぼみ 「頼むよ」


昴 「では、第2問はイメージ問題です」


つぼみ 「めんどくさ!」


昴 「あなたは夜中にお腹が減りました」


つぼみ 「はい。夜中にお腹が減りましたよ」


昴 「飢えたあなたは、猫の鬼吉おにきちのお皿の乾涸らびたカリカリをむさぼり食いましたね?」


つぼみ 「食べるか!」


昴 「カリカリだけでは空腹が満たされなかったあなたは、箱まで食べましたね?」


つぼみ 「食べねーよ!」


昴 「だっから、イエスって言えよ!」


つぼみ 「言いたくないよ!」


昴 「いまって、反抗期?」


つぼみ 「ちげーよ! イエスの言いやすい質問をしろっつうの!」


昴 「心得た。質問を変える」


つぼみ 「頼むぞ」


昴 「第3問。昨日の朝食はバナナでしたね?」


つぼみ 「そうそう、そういうのがいい。イエス!」


昴 「昼飯もバナナでしたね?」


つぼみ 「?――イエス!」


昴 「晩飯もバナナでしたね?」


つぼみ 「うう~ん? ……イエス!」


昴 「夜中に腹が減ったあなたは、乾涸らびたリカリをむさぼり食いましたね?」


つぼみ 「なんでだよ!」


昴 「箱も食べましたね?」


つぼみ 「食べるかっ!」




昴(髪をかきむしる) 「――ったく! なんだよ、もう!」


つぼみ 「キレるのかい!」


昴 「お前の顔がアッチャコッチャなるの、こんなに楽しみにしてるのに!」


つぼみ 「そんなに?」


昴 「お前がイエスって言わないから、ちっともアッチャコッチャにならないじゃないかっ!」


つぼみ 「涙のこぼれる理由が分からない!」


昴 「……あれ?」(妹の顔を凝視)


つぼみ 「え? え? なに?」


昴 「あれ……あれ? うおおー!」


つぼみ 「なに? どした? はっきり言って!」


昴 「衝撃の真実がいま明らかに!」


つぼみ 「おい~! 鏡はどこ?」


昴 「お前の顔、もともとアッチャコッチャだわ」


つぼみ 「いいかげんにしろっ!」


                    <了>

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