終末のリミットちゃん  <コメディ>

「地球爆発5分前デス!」

 爽やかな少女の声が、世界の終わりを告知した。


 僕は、目の前にえられた、金属の箱を凝視する。

 異様に大きな文字盤を、真紅の秒針が、小刻みに動いてゆく。


「なんだよ、これ?」


「ハジメマシテ! 最初に『リミットちゃん』と呼びかけてね?  ――残り時間4分29秒です」


 金属の箱が、さっきの少女の声で、僕に話しかける。


「リミット、ちゃん?」


「はーい! 惑星破壊型爆弾のリミットちゃんデス!」


「うぇ? リミットって……。まさか、時限爆弾?」


「はい! リミットちゃんは、AI 時限爆弾デス。間もなく太陽系第三惑星は跡形あとかたもなく消し飛びマス。お楽しみにね! ――残り時間3分44秒デス」


「なっ? やめろぉっ!」


「音声が認識できまセン。 ――残り時間3分39秒デス」


「止めろ! タイマーを止めろ!」


「音声が認識できまセン。『リミットちゃん』と呼びかけてね。 ――残り時間3分27秒デス」


「えええっ? リ、リ、リミットちゃん! タイマーの止め方を教えて!」


「はい。タイマーの止め方デスね? 著作権によりロックされていマス。――残り時間3分11秒デス」


「そこを、どうにかしろよ! だいたいアナログ表示って、おかしいだろっ!」


「音声が認識できまセン。 ――残り時間3分01秒デス」


「AI! 融通ゆうずうかないっ!」


「音声が認識できまセン。 ――残り時間2分49秒デス」


「助けて! リミットちゃん! 助けて!」


「はい。非常事態デスか? 119番通報を選択しマスか? ――残り時間2分40秒デス」


「もう、なんでもいい! リミットちゃん、電話して!」


「はい。119番通報デスね? リミットちゃんを電話回線に接続してくだサイ。 ――残り時間2分29秒デス」


「ぶっこわすぞ! このポンコツ!」


「音声が認識できまセン。 ――残り時間2分20秒デス」


「リミットちゃん! お前をぶっこわす!」


「はい。故障の場合デスね? 保証書に記載されているカスタマーセンターに連絡してくだサイ。 ――残り時間1分59秒デス」


「保証書、あるのかよ!」


 僕は、金属の箱を床に叩きつけた。だが。


「音声が認識できまセン。 ――残り時間1分06秒デス」


「だめだ! 壊れないっ!」


 僕が床に突っ伏すと、耳元で甘く切ないハミングが流れはじめた。


「ん~ん~んん♪ んん~んん♪ んんん、んんん~♪」


「螢の光かよ!」


「カウントダウン、はじまるヨー! 10! 9! 8!」


「いやだー! 死にたくないー!」


「5! 4! 3! ……」


「おかあちゃーん!」


 そのとき。ドアが大きく開いて、うちのオカンが入ってきた。


「やかましいっ!」


 枕元の箱形の目覚まし時計から、ど派手な爆発音が炸裂している。

 その名も『AI搭載・トリハダ覚醒マシーン・地球の終わり』。

 昨夜、はじめてセットして寝たんでした。


「はよ、それ、止めんかいな!」


「リミットちゃん。音、とめて」


「はい。とめマス」 ぴっ!


「なんで目覚ましが、AIやねん!」


 オカンのTシャツの背中には『I'll be back!』のロゴが踊っていた。

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