第11話

彼は、「出していいよ」とティッシュボックスを渡してくれた。口を閉じたまま、上目遣いで笑ってみせる。今私の口の中はいっぱいいっぱいなのよって感じで。

本当は、このまま下着だけをに身につけて、一緒にダラダラしたい。でも、なんだかそんな可愛い女の子みたいなこと言えなくて、シャワーを浴びにいく。

立ち上がるその瞬間、少しだけでいい、自分の体を綺麗だと思ってくれないかな。

鏡を見ると、 髪が体液で固まっていて、なんだか生々しくて汚いなと思った。

少しだけよれた化粧も、充血した目も、セックスをした後感を漂わせる。

どうして、映画や小説の濡れ場は、現実離れしていて、綺麗で儚く見えるのに、現実ではこんなにも大衆化した生々しい行為に思えるのだろう。

こんなときくらい、自分を綺麗だと思いたい。


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