第12話

今年の流行りのアウターが分からず、昨年流行っていたロングコートを羽織っている。コートを羽織った時に、耳の後ろにつけた香水が香ってきて、少し気分が上がった。

ケータイと財布とタバコさえあれば、どこへでも行ける。この身軽さを、いつか懐かしく思う日が来るのだろう。

私は家を出たあと、10分ほど歩き、いつもの場所へ行く。その建物の安っぽさで固めた高級感が好みで、何度来ても飽きない。パチンコ屋もそうだが、この安っぽさと高級感が共存しているとしか形容できない感じの健物に心惹かれる。好きな場所だ。

...ラブホテルは、文句のつけ所がない。値段も比較的リーズナブルで、アメニティの種類も豊富。お風呂は、広くて光ったり泡が出たりする。幼児が喜びそうなお風呂でする行為は、破廉恥な高揚感を湧かせ、愛を駆りたてる気がする。

ラブホテルの夢のような雰囲気は、何度行っても慣れない。

1度でいいから、半日とか、夜だけとか、3時間とかじゃなくて、1週間ほどあそこで暮らしてみたい。朝も夜も感じず、眠くなったら眠って、目が覚めたら起きる。セックスしたくなったら、どちらかともなく触れ絡める。好きな時間に好きなカクテルを飲んで、音楽を流しがら、セックス後の余韻を裸のまま楽しむ。そんな時間を過ごしてみたい。

幸だ不幸だ嘆く暇があるなら、そういう自分の欲求に忠実な時間を過ごしてみたら、案外スッキリするんじゃないか、なんて思ったりして。

この世の中で平等なんてどこにも存在しない。平等なんて有り得ない。ただ、「平等でない」その事実だけは、世界のどこにいても、平等に与えられている。そんな世の中だ。少しくらい、パラレルワールドに飛ぶような時間を、夢みたいな場所で過ごしてみたってバチは当たらないだろう。ラブホテルは、気軽にお姫様になれる場所。エモーショナルな場所だ。

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