第6話

「ゴホッ」




胸に剣を突き立てられた吸血鬼はその場に倒れた。




「今の内だ、逃げるぞ」




俺は腕を抑えながらその場を離れた。


ドラゴンに戻ったポールも後をついてくる。


チラ、と後ろを見たが、吸血鬼は地面に伏したままだ。




「ミスリルはどうすんだ?諦めるのか?」




「この腕じゃ運ぶのは無理だ。まずは応援を呼んで、この屋敷を包囲する」




俺たちは屋敷から出て、ポールはすぐさま本部に向かい応援を要請した。


俺は屋敷の外に一旦出て、応援を待った。


1時間ほど経過したか、仲間の車が続々と到着した。


吸血鬼が屋敷から出てくる気配はなく、そのまま突入、数分後に胸から血を流した吸血鬼をとらえて中から出てきた。




外に連れ出され、そのまま車に乗せられる。


傷が癒えなかったのは、恐らくミスリルが近くにあったからか。




それから俺は病院で治療を受け、任務を達成したのと、剣が握れるまで休養が必要との理由から、休みをもらうこととなった。










俺たちは一晩本部に止まり、朝の9時ごろ起きてきてシャワーを浴び、少しのんびりしてから帰宅することにした。




俺の家はセントラルから南の方角に向かった住宅街にある。


家に帰るのは実に3か月ぶりだ。


俺は重い足取りで家に向かった。




「おいディック、お前どんな顔して帰ればいいかわかんないだろ?」




ポールが帰り道に茶々を入れてきた。




「……ちっ、お前には関係ない」




正直、今まで家庭をないがしろにしてきたな、という自覚は俺にだってある。


だが、帰るに帰れなくなっているのが現状だ。




住宅街に入り、しばらく歩くと自分の家にたどり着いた。


石の素材で作られた共同住宅の3階に俺たち家族は住んでいる。


妻、そして息子が一人だ。


妻がエリーシア、息子がケイトって名前だ。




息子は10歳になったばかりで、下等学校に通っている。


下等、中等までは義務教育で、そこから上等に進むためには、高い学費がかかる。




エリーシアは、現在家で療養中だ。


これに関しては、俺に責任がある。




そもそものなれそめは、俺が警察の学校に通っていた時、友人の紹介で知り合った。


その時は21歳で、2年の交際を得て結婚した。


交際期間の2年は、お互い好きなようにやっていた。


一応付き合ってはいたが、他の女の子ともコソコソやっていた時もあったし、相手も似たような感じだった。


そんな自由な生活をしていたある日、子供ができた。


それを期に俺たちは結婚し、一緒に生活するようになった。




だが、俺はもともと一人でいる時間の方が好きなタチだ。


四六時中ポールがわめいているからそうなったってのもあるかも知れないが。


だんだん家にいるのが煩わしく感じるようになって来た。


子育てにも興味はなかったし、それをするくらいなら仕事をしていた方がマシだと思っていた。




俺は次第に家に帰らなくなり、仲間とキャバレー通いをするようになった。


23で結婚し、遊び足りなかった俺はそれにのめり込んでいった。


家に金は入れるが、あとはキャバレーで散財し、帰る回数も週に一回から、月に一回、だんだん帰りにくくなっていくと、3か月に一回、なんて時もあった。




その時の妻は、まるで俺の存在を無視するかのような態度をとっていた。


俺の方も入れ込んでいた子の方が好きになっていて、「お前がそう来るなら俺も同じだ」と無視を決め込んだ。




そして、とうとう妻は心の病にかかってしまった。




どうせ俺のことなんて気にしていない、と思っていたのに……


俺は妻を傷つけていたことに気付いていなかった。




ある日、帰ると家の中は散らかり放題になっていた。


息子に事情を聞くと、数週間前から家事を放棄したとのことだ。


代わりにケイトが家事をするようになった。


俺はどうしたらいいか分からず、息子に甘える形で、逃げた。




そして、今を迎える。


息子は恐らく俺が仕事が忙しくて帰れないのだと思っているだろう。


妻に関しては、もう手遅れかもしれない……




家の扉の前に着き、ゆっくり開ける。


すると、息子が部屋の掃除をしているところだった。




「あ、父さん、久しぶり」




素っ気ない態度。


なぜかそんな気がした。




「ああ」




俺の方も、ケイトに何と声をかけていいか分からず、そんな返事しかできなかった。




「父さん、しばらくここにいるの?」




「ああ、腕が治るまでな」




「ケガ、したの?」




「ああ、任務でな」




そんなやりとりをして、俺は家の奥の部屋に入ろうとした。


エリーシアの部屋だ。


コンコン、とノックする。




「何?」




返事がある。


声のトーンは別段、いつも通りに感じる。




「俺だ、帰った」




「……そう」




返事はそれだけだった。


中に入るのをためらい、妻の顔は見れなかった。


俺はここでは歓迎されていない。


いても気まずい存在なのだ。




すると、奥の方でポールとケイトが話していた。


楽しそうな笑い声が聞こえる。


俺は拳をぐっと固めた。


ここの主人は俺のハズだ、なんでこんな気持ちを味わっているんだ……




俺にとって、家族は重荷だった。


そして、それから逃れることはできない。


これは何の呪いだ?


俺はそう思いながら自分の部屋に入っていった。








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