第5話
俺が屋敷に駆け込もうとした時、それを咎める声があった。
「まてっ!」
ポールが俺の前に躍り出て、それを制した。
「なんだ?」
「相手は吸血鬼だろっ、どうやって仕留めるつもりだよ?」
「……」
頭に血が上って、そのことまで考えが働かなかった。
俺は一旦冷静になって、どうすれば相手を仕留められるか考えた。
相手はミスリルの武器でなければ通用しない。
となれば目的を変更し、ここは相手を仕留めることでなく、ミスリルを手に入れるという方向で作戦を練らなければならない。
「お前に諭されるとは思わなかったぜ。ポール、この屋敷を一周して、潜入できる場所があるか探せ」
「了解っ!」
ポールは屋敷の外を旋回し、入っていける場所を探し始めた。
俺は意識を集中し、ミスリルの気配を探った。
強力な魔力が下から染み出している。
恐らく地下だ。
ヒューンとポールが戻って来た。
「ディック!正面は番犬が何匹かいてダメだ。裏口の扉からなら、柵を越えれば入れると思う。オレが屋根裏の窓をたたき割って入る。そしたら裏口の扉の鍵を開けるから、それで中に入るんだ」
「オーケー、頼むぜ」
手筈通り、俺は裏に回り込んで柵を飛び越えた。
案外楽勝で柵はこえられた。
一方、ポールの方は、小石を掴んでガラスにたたき込む。
ガシャアンという音が響き渡った。
(おいおい、聞こえてないだろうな……)
若干の不安を残しつつも、数秒後に扉の鍵の開く音がした。
慎重に扉を開けて、中に入る。
「!?」
扉を開けて玄関をくぐろうとした瞬間、犬が通路の横に座っていた。
俺は人差し指を口に持って行って、静かにしてくれ、と心の中で祈った。
その犬は吠えようとはせず、尻尾をブンブン振り回すだけだ。
「……バカ犬か」
俺はそうつぶやいて、そこを離れた。
ポールも後をついてくる。
背後を見渡し、吸血鬼に遭遇しないよう注意を払う。
そして、下りの階段を発見した。
階段の軋む音をできるだけ立てないよう、ゆっくり進む。
そして、通路脇の一つ目の扉を開けた時、それを発見した。
箱に入ったミスリルだ。
「あとは、こいつを運ぶだけか」
「それはどうかな?」
俺はその声に反応し、後方を振り向いた。
そこにいたのは、見た目は若々しい、銀髪の吸血鬼だった。
吸血鬼の横にはさっきの犬がいる。
吸血鬼はその犬に触れて、こう言った。
「モード・鎌」
すると、犬は大きな鎌に変身し、吸血鬼の手に収まった。
「そういうことか!」
横にいたポールが叫んだ。
「あの鎌でアルをやったんだ」
ポールの証言と照らし合わせて、どうやらこの目の前の吸血鬼こそ、アルを殺した張本人で間違いないようだ。
「モード・剣」
俺はポールを剣に変身させ、相手が不死身ということを無視して突っ込んだ。
一太刀浴びせなければ気が済まない。
相手の武器はでかい鎌だ。
攻撃範囲は広いが、内側に潜り込めば問題ない。
「オオオオオッ」
俺は叫びと共に、相手に斬りかかった。
しかし、
「モード・剣」
相手は再度、手に持っていた武器の形を変えた。
今度は剣だ。
(やばい!)
ザン、と相手は剣を振り下ろした。
俺の振り上げた手首に斬撃が決まる。
とっさに身を引いたが、俺の手首からは血が噴き出した。
「くっ!」
俺は飛びのいて距離を取った。
しかし、この傷はまずい。
剣を握ることができず、その場に落とした。
「お前がミスリルを狙った理由はなんだ?」
そう問いながら、吸血鬼が剣の切っ先を向けた。
「……お前らを殺すためだ」
「雇い主がいるのか?それともお前個人の恨みか?」
「それは言えるかよ。それより、お前が密造酒をやってた張本人か?」
吸血鬼はこの状況でそんなことを知ってどうする?と聞いてきたが、俺はどうせ死ぬんだから教えろ、と答えた。
「ならお前の情報と引き換えだ、それでいいなら答えよう」
「交渉成立だな」
相手は俺に逃げ場はないと思っている。
別に情報を漏らして相手が何もしゃべらなくても、その場で殺して終わりだ。
吸血鬼はしゃべり始めた。
「察しの通り、私は密造酒を作っている。しかし、金儲けが目的ではない。市民権を得るための行為だ。この不況時に雇用を拡大することで、市民を味方につける。加えて禁酒法を逆手にとって、裏で酒を恵む。これも同じ効果が期待できる」
そこまで聞いて大体分かった。
こいつは、選挙に出て政治家になるつもりだ。
(国の人間もこいつの目的を推測していたんだ。だから、ターゲットに選んだ)
「ペラペラとありがとよ、戻れ」
ポールがドラゴンに戻り、吸血鬼は俺を斬るべく、前に出た。
「言うつもりがないなら、死ね!」
その時、ポールは口から火を吐き、相手の目をくらました。
ゴウッと火球が吸血鬼に直撃し、火炎が広がる。
「今の内に逃げろっ!」
「逃げるかよ、俺の腕に巻き付け!」
「腕に!?そういうことかっ」
ポールが俺の腕に巻き付く。
「モード・剣」
その状態で剣に変身させる。
指が動かなくても、これなら剣を振れる。
「キサマッ」
吸血鬼が火を払いのけると同時に、胸に剣を突き立てた。
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