第4話
時刻は深夜1時頃か。
真っ暗な道をアルブレットは進んでいた。
急いでミスリルを本部に届けて帰れば、朝の出勤時間まで5時間は寝れるだろう。
何とか先を見通せる程度の儚い明かりを頼りに、道を進んだ。
「!?」
突然明かりに犬が飛び込んで来た。
アルブレットはハンドルを切り、どうにか犬を引かずに済んだが、道の脇に乗り出してしまった。
「くそ……なんなの……」
ブレーキを強く踏んだため、衝撃でハンドルに顔面を打ち付けた。
しかし、口の中を軽く切った程度で、大したケガではなかった。
ふと、何気なくバックミラーに目をやると、何者かが近づいてくる。
近くを通った人が助けに来てくれたのか?
そう思ったが、次に男の手に持っていたものを見て、凍り付いた。
大きな鎌を持った男が、車に近づいてきていた。
俺は行きつけの飲み場で、カウンターの隅に座り、ジュースを飲んでいた。
ぐっと飲み干し、渇きを潤す。
すると、マスターが話しかけてきた。
「お客さん、ちょっと面白いものがあるんですが、どうでしょう?」
そう言って、ボトルを見せてくる。
「おい!そいつは……」
一瞬、酒か?と思ったが、マスターは即座に否定してきた。
「酒じゃないんですね。一杯飲んでみてください」
マスターは、グラスに紫の液体を注ぎ、俺の前に出してきた。
俺は光にかざしてその液体を見つめる。
見た目は赤ワインみたいだが、と一杯口にする。
妙な味がした。
アルコールが入っている、が、ほのかにそれを感じさせる程度で、酔いを誘うほどの量ではない。
俺が口を開く前にマスターが言った。
「面白いでしょう?これは、酒のようで酒ではないんです。アルコールは入っていますが、度数はほんの5パーセントに満たない、これは法律に触れない新しい飲み物なんですよ。もちろん何杯も飲めば酔っぱらうから、一人の客にはせいぜい2杯までしか出さないんです」
「……そういうことか」
どうやら、こいつが出回っている酒の正体だ。
そして捜査線上に上がらなかった理由が分かった。
店員らは、これを酒として取り扱っていないのだ。
法律では、「アルコールを含み、酔いをもたらす酒の販売の禁止」とある。
こいつはアルコールは含むが、酔いをもたらすか、と言えばかなりあいまいだ。
そして、実際酔いが回らないのであれば、実証されたことにはならない。
俺は思わずニヤッとした。
やられたなアル、と言ってもう一杯飲んだ。
やはりこんなものであっても、酒の味は恋しかった。
しばらく飲んで、妙に静かだな、と思い始めた。
俺ははっとした。
ポールがいねえ!
金を払って店から出た。
剣の状態のままで、アルの車に乗せたままだ。
この店から本部まで、大体2時間の道のりか。
くそ、めんどくせえことをした。
俺は大通り脇の道を駆け出した。
しばらく走っていく。
すると、誰かが倒れていた。
「おいおい、今度はなんだ?」
俺はどんどん近づいて行く。
そして、その足が徐々に早まる。
「なっ……」
俺は目を疑った。
地面を血に染め、倒れていたのはアルブレットだった。
「アル!」
俺は急いでアルに駆け寄って上体を起こし、声をかけた。
「大丈夫か!おい、何があった!」
しかし、アルの体はぐたりとしたまま動こうとしなかった。
すでに、この世を去っていた……
「ふざけんなよ……」
誰がこんなことをしやがったんだ。
俺は思考を巡らし、すぐに一つのことに思い当たった。
アルを殺したやつは、恐らくミスリルを狙っていたに違いない。
その証拠に車がない。
アルの命を狙っただけなら、車など必要がないからだ。
あれだけの重さのミスリルを運ぶのに、担いではない。
効率よく車ごと拝借したのだ。
そして、その実行犯こそ、吸血鬼に違いない。
俺はそう思い、周囲に意識を集中させた。
この世界には、魔力を持つ者と扱う者がいる。
魔力を持つ者は、ポールのような特殊なドラゴンなどである。
そして、扱う者は、ディックのように魔力を持つ者に働きかけて、超常的な現象を起こす。
ディック自身には魔力はないが、魔力を感じとることはできる。
ポールは自分でもコントロールできるが、意識してない場合、常に魔力を放っている。
今回、車に取り残されたポールを探し出すため、ディックは魔力をかぎ分けて居場所を突き止めようとした。
「そこか」
俺はここから数キロ先の場所にポールの魔力を感じ取った。
同時にミスリルの放つ強力な魔力も感じ取った。
「相手はこいつを感じ取って、アルに近づいたってわけか」
俺は道路を横切って最短距離で、その場所を目指した。
そこには大きな屋敷があった。
屋敷の脇にはアルの車が止めてある。
俺はその車に近づいて、後部座席を開けた。
そして、
「戻れ」
そういうと、ポールは剣からドラゴンの姿に戻った。
「ぷはっ」
「おい、何があったか説明しろ」
「やべえよディック!アルがやられちまった!」
ポールは事情を話し始めた。
ミラー越しでしか見えなかったが、相手は鎌でアルを殺したらしい。
「野郎っ」
俺はいきり立って屋敷に飛び込もうとした。
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