第8話
輪郭が掴めない床を見下ろす。
誰かが周囲にいる気配はあるが拘束されて身動きが取れない。
考えが纏まらないが記憶は直前まで覚えている。
狩りは始まっている。
自身へと弓矢が向けられていると喚き散らした。
いま目の前に弓を携え弓を引こうとする狩人(猟人)に驚愕の眼差しを向ける。
帽子で分からない顔。だが独特の匂いが鼻を突いた。嗅いだことはないが忘れてるだけかもしれないと匂いの記憶を辿り行きつく。
血の匂いだと叫び転がる。
周囲の人間が私を取り囲もうとする。
叫び続ける。私は被害者だ。何故私を襲う。犯人は彼奴だ目の前にいると指さす。
周囲の人が目を向ける。
視界が開かれる。
その指は間違いなく侍女へ向いていたからだ。
指が折れる。力なく違うのだと犯人は帽子を被った猟人なのだと言い訳する。
自身が正気ではないことをショックを受け周囲の貴族や文官、武官たちの視線で分かりモーゼの十戒の如く人だかりが二分した。
尋問する者が現れる。彼も来るだろうかと小さく尋ねた。彼とは誰だ。ダッチタンの彼だ。周囲が凍り付いたのを察し自身は口を閉ざした。
それ以上聞かなかった。彼はここでは触れてはならぬ禁忌(触らぬ神に祟りなし)であり私も礼に入って礼に倣う。
王の毒見で終わる日々驚くほどあの日が経ちまた時間と共に騒ぎは収束される箝口令が布かれ誰もがまた忘れる。
私もまた食事をすることで忘れていった。驚くほど自身は周囲へと馴染み貴族化しているのだと気づかされているのは自身の部屋の床に数滴血が零れ落ち視線を追っていく内それは『何者かに抜き取られた何者かの』舌であるのを見たからである。事件は何一つ解決をしていないことを己の警戒の無さ甘さ無力を思い知る。
悲痛な声と壁に書かれた文字が同時に訳される。
『背中に蜥蜴の刺青がある者を信用してはならない』
後々知る事になる。
その舌先が二又に分かれ煙草が押しつけられた痕があると。
その時は大量の血で舌である事しか判別できず、侍女二人を慌てて呼びつけた。
もう一人の侍女は男装のハウスキーパーで執事と呼ぼう。
執事は手早く必要な人を呼びつけ然るべき手順に乗っ取り処分と人を配置した。
舌先が割れていることは尋問する人に尋ねなかったら決して明かされない情報。
何故隠す。貴方が貴族だからお伝えしたのです。
秘密は教えてくれなかった。そうまでして隠される秘密に内心興味を示す。
彼の騎士経歴を知らべ抹消されているだろうと高を括っていたが情報の予備は必ず残すという生真面目で保険を掛けたがる記録管のおかげで彼の事を知れた。
経歴から分かったことはこれは複数の他の人物の経歴と重ね合わせた結果偶然分かったことだが、写しであった。
他人の経歴が見れてそしてそれを詐称でき採用される身分。
都市伝説か何かに行き当たった気分だ。貴族が出来ることではない。貴族以外の者だ。
貴族以上で彼は何者。牢で出会った彼は誰で何の為?
疑問とそれは死んでいる人に向けられる。
君は僕ではない誰かに恋し、掻っ攫われ僕は哀れに死ぬ。
嫌そうじゃなかったが脚色が自身の脳内に入り邪魔をする。
記録管へ報告の義務が出てくる。記録管は自身の尋問を最初に行った者だ。
記録管はこの城の警備は緩いですからねと机デスクで散乱された書類を纏め上げていた。
今も誰かが荒らしてこの書類を見たのでしょう。スパイですかと恐る恐る尋ねる彼は顔を寄せこの城の警備は緩く各国の情報なども纏められますそしてその情報に関して重要度が低く各国に行く必要がないこの国で各国を調べれば済むレベルだからスパイに対してこの国で狼藉を働かなければそのまま各国へご帰還願う方針なのです。
そんな馬鹿なと息を飲み目を見開く。
なら一連の犯行がスパイであった場合は。その言葉は強い言葉で遮られる。
それは断じてあり得ないと続けて戦争をむやみやたらにしたい者でしか考えつかないことであると。
戦争がしたい? 疑問に思う言葉。
ええ各国各地で戦争を行わさせ主要国全て戦争に乗り出させ破滅の脚本シナリオ一体何処の馬鹿が考えるんでしょうねと高笑いしている。
私は青ざめたが貴族も馬鹿ではなくすでに手を考えていた。
各国合同参加自国主催セレモニー。
このパーティーの予定がある為、事件の隠蔽を速やかに図ったことは理解できた。
私は礼儀作法、時間表スケジュールを叩き込まれる。
常に王の側に居り、王の毒見を全うする。
緊張が走った。それは各国産地で作られる毒の名産物を『練習』で食した時に走った。
私は過去に来ていた。
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