第2話



頭痛がし質屋に流れたのならもう取り返しがないでは無いか。

物はすぐに見つかった。

それは王の前で転がされていたからだ衆目の前で貴族が自身に管理不届きを遠回しに言いつつそれは盗まれた物で質屋に流された所を部下が買い戻したと。

私はその時点であの侍女が勝手に質屋に金に換え私腹を肥やしているものだと思ったが違ったらしい。

自身に一度管理させそれを「盗まれた物」だと貴族側が証言するための贈り物貢物。

自身は被害者であり物は持ち主に帰るそして私の面目は潰れる。

思わず盗まれた物は何ですかと尋ねそうになるのを一言目で食い留める。

鼻で笑われた気がした。周囲に無気力且つ興味が無いそれを利用されサンドバックの白羽の矢になるとは思いも知らなかった。

こういう者は弱者を標的にし自身の代わりもしくは生贄に飢えた狩りを楽しむ。

スケープゴート。だろうか。

自信が無くなる。矢継ぎ早に自身の叱りと立場の重要性を表面的に言うがそれは宗教であり信仰とは程遠い輪に育った自身の温さを感じるがさてどのように実行すべきか。

曰く聖女には神聖なる神の加護と力がある。

感じないし認識できないし使うことは出来るとは思えない。

聖女は男を見ただけで魅了できる。

ごめん、美少女じゃなくてすみません。謝罪の気持ちはあの時召喚された時の好奇の眼差しが侮蔑と嘲笑の色が見えトラウマとは言わないまでも人前、集団が怖いと思うのに復活出来たのは強制的な力である。

もう嫌だ。衆目の心無い叱りにはウンザリだ。

逃げる逃げたいでも外の世界で自身が生きられないことは認識している。

認識というより噂なかには狂言も混じりつつ自身へと届けられた外の世界への行くなというメッセージ。

貴族社会という安全で取り除かれた外の世界は檻から見て自由で憧れてもそこは理想の夢であり外では屍が転がっている。

ここから自由に生きなければならない勇気が欲しい。

切実に思う祈りの声は天に転がり落ち雨が降ったことで叱りという名に潜む誹りの声が止む。

自身は何でもないかのように見て散見していく貴族たちを不思議に思う。

天啓とは行かずともその場から救ってくれたのだから。

自身は物と侍女を密かに探し始めた。

侍女は貴族と関係がないとは嘘であり妾の子であることが割れ何故執拗なのかも理由が分かることとなった。

彼女は前任の聖女の娘だが聖女は淫楽の罪で断罪されていた。

聖女の咎を娘で負わせた。

娘はまだ十代前半自身と歳も近かった。

彼女に恨みの気持ちはない初めて会った時から少し好感を抱いただけだ。

自身に良い気持ちを抱いていないだろう。そして周囲の目から良い気持ちも抱いていないだろう。

物は以前不明である。

これを口実に彼女へと近づくいや取り入る機会を得た。

彼女は堅い表情を一瞬だけ強張らせた。

自身が最初に話したことは詫びと挨拶である。

自身は同情を買うでも責めるでもなく自然と会話を行えさえすればいい。

その会話は長くは続かない。

自身は焦りの顔すらせず彼女の謝罪と背中をただ黙って見て思考を巡らすだけであった。

上から報告があった。

自身が侍女と接したことを咎められ何故知っているのかを尋ねたら黙秘を言い渡される。

理不尽だが『侍女から報告された』が、なかった。

つまり自身は何者かにずっとつけられていたことが分かり内心ホッと息を吐く。

落ち着いたわけではない。冷静になる為の息だ。

物形状は尋ねなかったが代わりに自身がどうやって盗んだか自慢した。

嘘だ狂言だが聞ければ良かったし応えの表情は驚きでこの人は今回にあまり悪い立ち位置に関与してはいない。

断定は早いが向ける矛先今後の視線を考えるため貴族について尋ねると黙秘される。

その表情からは何も伺えなかった。

就寝するふりをして外へと出歩いた自身を監視していた者は彼であろうと近づき面と向かって注意され分かったからだ。

それに対し言葉の銃口を向け矛先を反らすことも考えたが止めそれは脅しであることを認識し改めて彼の見目で判断する。

彼はこの城に出入りする格好にしては佇まいと合わない。何処か無礼尊大例えば。

騎士のようですね貴方はと自然に言ったつもりだが警戒を招きそれに対し反論する彼の口を止めた付け足した言葉でまるでと。

驚きの顔から取り繕う様だが予想は概ね外れてはいないだろうと見越す。

彼の顔は怖れが僅かに滲んでいたのを見逃していた。

隣国に行けるとしたら行きたいですか彼から漏れた言葉は何処か縋る声でか細かったが聞き逃さなかった。

二回も届られた隣国からメッセージに意味があることは理解できたが自身の立場と関わりがありそうなのは再認識せざるを得ない。

その応えを保留するのは危険な気がしその場で詰りつつ見返りの何か物ではない何かが欲しがった。

彼は一つだけ提示しつつその場を去った。

狩りは始まっているのかもしれない。

狩りについて尋ねようとしたその時唯一の明かりが風で全部その場を照らしていた光が途絶える。

遠くで鳴く虫の鳴き声がここまで響く。

その場からどうやって自室の寝床に帰ったか覚えていない。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る