弔いの鐘、ブルーベル

ええ、知っているでしょう?

ブルーベルは山査子スキャッハと同じく、五月ビャルティネに咲く花ですもの。

ええ、ええ、そう、ベルテインの時期に咲く花よ。

それが十一月サウィンの森の地面一面に、あの青い花を咲かせていたの。

狂い咲き、なんていう感じでもなかったのよ。

ただ、ただ、咲いていたの。当然のようにね。


そして、私はあまりにもそれが当然のようだったから、変だなんて思わなかったの。

薄暗がりの中に、真っ青な絨毯のように広がる一面の花――今思えば、とても幻想的だけど、薄気味悪い景色だったわね。

ブルーベルの真っ青な絨毯の中に、足を踏み入れたその時だったわ。

さあっと風が吹いたの。

その風は、彼の金の髪を揺らして、私の赤毛を揺らして、それからブルーベルの花を揺らしたのよ。


風に揺られたブルーベルは、と、いっせいに鈴のような音を立てたわ。

ええ、地面一杯に咲きみだれたブルーベルが、いっせいに。

その音はとてもきれいで、でもどこか物悲しかったわね。


ブルーベルはね、善き人々ディーネ・マハの呼び鈴なのよ。仲間を呼ぶ時に鳴らすのですって。

でもね、その音は普通、人間には聞こえない。

聞こえてしまったら、それはつまり、その人が善き人々ディーネ・マハに呼ばれているの。

だから、その音を聞いた人は善き人々ディーネ・マハに連れて行かれて死んでしまうって言うわ。


私は、最初それを聞いた時、なんの違和感もなかったの

ああ、呼んでるんだなって自然に思ってしまったのよ。

それから、鳴るはずのない花が鳴ったと、はっと気付いて、でも、その時にはもう遅かったのね。

だって、私は季節外れのこの花で、しまったんだもの。

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