キグル民族の憂鬱 第3話「ロビンの憂鬱」
「ロビン!まだわかってないの!?人前では飲食禁止って言ってるでしょ!」
「でも、あの子『わかってる』って言ってたぞ?」
「そういう意味じゃない!あの子は私たちが普通の着ぐるみだと思ってるの!」
「『普通』って何だよ……オレたちはこれが普通だってのに……」
部屋に戻ったオレは、ポピーに説教されながら良男に置いてもらった水が出る機械で喉の渇きを潤した。
「でも実際、ボクらの正体をあおいちゃんに隠し続けるのは無理があるよね。毎日一緒に仕事してるわけだし……」
「そうだそうだ」
「ダメ。子供はすぐそういう話を広めるんだから」
「あおいは結構しっかりしてるぞ?少なくともチビたちよりは」
「そういえばボク、今日子供たちに尻尾引っ張られた……痛かった……」
「ダメなものはダメ。福山Pはどうしても必要だから伝えてもらったのであって、人間に私たちの正体を知られるのは極力避けなきゃいけないの」
「はーい……」
床に寝転がってだらだらしていると、誰かがドアをノックした。
「どうぞー」
扉が開き、良男が部屋に入ってきた。そもそも、この部屋を訪れるのは良男と福山Pくらいなのだ。
「おう、お疲れー。アイス買ってきたぞー」
「やったー!」
ゲニスが良男に飛びつき、コンビニの袋からアイスを取り出す。
「ねえ良男さん、ボクまたお外に出かけたい」
「あー……わかった、福山さんにイベントのお願いを出しておくよ」
「わーい」
オレたちは、基本的に
「ねえ良男さん、またここに泊まっていかない?」
「いや、今夜はダメだ。満月だからね」
「あー、そっかー……」
「大変だよな、良男も」
良男は、満月の夜は自宅で過ごすと決めている。なぜなら、彼は満月の夜にオオカミに変化する狼男だからだ。このことは福山Pにすら知らせていない秘密で、ここではオレたちしか知らない。
「まあ、僕たち人外種族が人間の社会で生きようと思ったら、どうしても必要なことだからね」
「なんとかして共存できればいいんですけどね……」
ポピーが言った。
「どうだろうねぇ……少なくとも、かつての人間はそれを許さなかったわけだからね」
オレたち人外種族は、人間の社会では「いないもの」として扱われる。そんなものは最初から存在せず、この世で文明を持っているのは人間だけ、ということだ。けど、実際は違う。元々この世界には、人間以外にも様々な種族が文明を持って存在していた。が、その中には人間を襲う者もいたため、危険視した人々によって「人間以外は皆殺しにしろ」という風潮が生まれたらしい。以来、オレたちの先祖は大勢が殺され、わずかに生き延びた者たちが人目につかない場所でひっそりと暮らすようになったという。良男のように普段は人間の姿をしていたり、人間に化ける力をもっていたりする者は人間の社会に紛れて生活することができるけど、オレたちキグルは目立つ。だからオレたちは去年までずっと森の奥で生活していたのだ。
「僕だって、うっかり人前でオオカミになったらただじゃ済まない。多分、警察に撃ち殺されるだろうね」
「ひえー……ボクも勝手に外に出たら殺されちゃうかな?」
「殺されはしないだろうけど、目立つよね」
「目立ちますね」
「目立つな」
「うわーん」
人外種族を歴史から消し去った人間は、ますます大きな力を手に入れた。それが人外種族と決別したからなのか、それとも共存していてもそうなっていたのかはわからない。結局のところ、オレにはキグルも狼男も当たり前に人前で生活できる世の中が来てくれればいいと願うことしかできない。
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