終8章「恐れるな」
相変わらず部屋一面にけたたましい音が鳴り響いている。
ベルはアルビオンの前に立っていた。
もう何度目だろうか……。
しかし、今回は仲間達もいる。
今度こそうまくいく、やり遂げてみせると意気込む。
だが、そうはさせまいとブリッツもまたベル達の前に立ちふさがっていた。
「また貴方ですかベ……ル?」
ブリッツがベルの方を向き、異変に気づく。
「おやあ? 今度はお仲間を連れて来たんですか……まあ、それでも、結果は変わらないと思いますけどねえ!」
間髪いれず、突如ブリッツがベル目掛け走り出す。
ベルも応戦し、剣で攻撃ブリッツが殴りかかって来るのを受け止める。
しかし、圧倒的なパワー差で徐々に耐えられなくなる。
「俺の右腕、くれてやるよっ!」
ブリッツは剣で受け止めていたベルの右腕を剣ごと引きちぎる。
その間に、イデアルがブリッツの同じく右腕を剣で切り裂く。
「うあああああ! 私の右腕があああ!」
一旦距離を取る二人。
「大丈夫か?」
「問題ない、右腕の交換ならこっちのが特だ」
ベルは後ろにいる仲間達を見る。
「ベル! あの頭は前に見た時と同じか?」
「ああ! 前の時も潰れてた!」
ゼノがベルの返答を聞くと駆け寄ってくる。
「あれをやったのは俺だ」
「そうだったな、で? 何が言いたい?」
「リセットの度にアンドロイドは修復されるんだろ? だったら何であいつはあのままなんだ」
ゼノとベルの間にネシアが割って入る。
「おそらく、修理用のパーツが無いのでしょう」
「パーツが無い?」
「まじかよ……」
「はい、唯一のS型ですので、予備のパーツ数も数に限りがある。何度目かのループの際に修復用のパーツが無くなりそのまま……という事でしょう」
ゼノは皆に攻撃の手を止めるように言う。
未だにブリッツは地面を転げ回っているが、オーが出てくる様子もない。
「皆、これ以上奴を傷つけてはいけない」
仲間達が疑問の声を上げる中、冷静に告げる。
「おそらくこのままブリッツを破壊した後、アルビオンも破壊した場合オーが使う身体が無くなる」
「ええ、そうでしょうね」
ネシアが続ける。
「アルビオンが作り出したN型。これはあくまでアルビオン自身が操作しているものになります。」
「つまり、アルビオンを破壊すればほとんどのアンドロイドの動きも止まるという事?」
「そうです」
リリーの疑問にネシアは正直に答える。
ネシアとゼノの言う通りなら、このままブリッツを破壊するという事はオーも破壊するという事になる。
「他の、N型以外のアンドロイドは?」
ベルが尋ねる。
「今現在残っているのは我々だけです」
ネシアの返答に皆の中に迷いが出る。
――このまま破壊していいのか?
そんな中ゼノが立ち上がる。
「やろう」
「ゼノ……いいのか?」
イデアルが確認する。
ゼノも「ああ」とだけ答える。
ゼノの決意は固く、それによって他の者も立ち上がる。
「きっとオーも頷いてただろうな」
「そうだといいが」
「どっちにしよやるしかねえ」
「終わらせましょう」
4人は一斉にブリッツの元へ走り出す。
「なめるなあああああああ!」
ブリッツは残った左腕でイデアルを殴り飛ばす。
壁に衝突し、壁には大きなひびが入る。
「イデアル!」
吹き飛ばされたイデアルに気を取られたゼノは直ぐに来たブリッツの蹴りに気づかず、攻撃をもろに食らう。
「ごはっ」
数十センチ後ろにずり下がりながら蹲る。
その下には血だまりが出来上がる。
「くそっ!」
利き腕である右腕が破壊されたベルの攻撃はブリッツにかすりもしない。
そのままベルもブリッツに殴り飛ばされ、今度は左足にひびが入り始める。
「弱すぎる、この程度で私に勝つつもりですか? 勝てると思っているんですか?」
「私を忘れないで!」
ブリッツの背後を取ったリリーは渾身の力でブリッツの背中を殴り飛ばす。
その方向にはイデアルがいる。
「ナイスパンチ!」
氷の能力で枷のような物を作り出していたイデアルは、吹き飛び倒れ込んだブリッツにそれを取り付ける。
左手、右足、そして左足と付けていく。
「うがああああああ!」
しかし、氷もろともイデアルは再び吹き飛ばされる。
吹き飛ばされる拍子に攻撃を左腕で防いだ際に、イデアルの左腕は使い物にならなくなる。
「馬鹿力が!」
ベルが飛びかかる。
「今の内だ!」
ベルが叫ぶが、反応したのはリリーのみだった。
急いで駆け寄るリリー、同じくブリッツに寄ろうとゼノも動くが、血を吐き出し再び蹲る。
「二人とも離れて!」
ネシアが叫ぶ。
それに合わせてベルとリリーもブリッツから離れる。
「これでお終いです!」
ネシアは自身のエネルギーを右腕に集中し、圧縮させブリッツ目掛けて一気に放つ。
大きめの球体となったエネルギーはバチバチと周りに火花を散らしながら、急速にブリッツへと向かう。
避ける暇が無かったブリッツはそのまま正面から食らう。
「ああああああっ!」
「何だ今のは!?」
「雷!?」
そう、それはさながら雷の様。
この世界の五種類の魔法の一つ『雷』だった。
「すごいなネシア!」
駆け寄るベルとリリー。
「ええ、一度だけなので……機会を伺ってたんですが、うまく行きました……今のうちにブリッツのメモリーチップを!」
「わかった!」
ベルは再びブリッツの方へ。
リリーもネシアの様子を気にしながらもブリッツの方へ向かう。
「よし!」
「それがブリッツのメモリーチップね?」
「うまくいったのか……」
ネシアの技でなんとかブリッツのメモリーチップを抜き出す事に成功したベル。
イデアルもなんとか立ち上がり、ベルの様子を伺う。
「よかったです……ね」
ネシアはそのまま頭から倒れ込む。
「ネシア!?」
ベル達はネシアの異変に気づき再びネシアの方へ、イデアルはゼノに肩を貸しながらもネシアの元へ向かう。
「おい! 大丈夫か!」
「はい、大丈夫です。それにしても一度きりの技が成功して良かった……」
「一度きりって、貴方まさか!?」
「はい、あの技は全身のエネルギーを凝縮する技です。負荷が大きくなりすぎるために技の発動と同時にメモリーチップが焼き切れます」
「それって!?」
ベルとリリーは先程のネシアの攻撃が命を懸けたものだと知る。
ゼノとイデアルも何とも言えないという表情だ。
「オーさんでしたね、その方には私のボディを使う様に言ってください。大丈夫です、ボディにダメージは無いので……」
「馬鹿野郎! 誰もそんな事望んでないだろ!」
「です……が、ブリッツの……ボディはも……う……」
次第にネシアの言葉が薄れていく。
後頭部からは煙が上がっている。
いそいでリリーが後頭部、メモリーチップが収納されている場所を開ける。
煙の発生源はそのメモリーチップだった。
よほど負荷が掛かっていたのだろう、形は歪み、一部分は溶け出している。
「この世界で魔法が認識されているにも関わらず、誰もそれを使わない理由が分かったよ……」
ゼノが絞り出すような声で言う。
この世界の魔法。アンドロイドが使う魔法は、魔法と言うには余りに不完全で、火・水・地・雷そして光のどれもが自身を犠牲に発動しているのだろう。
それはある意味、魔法を使うと言う事は自爆するという事でもある。
だからこそこの世界のアンドロイド達は一度として『魔法を使う事をしなかった』。
完全に機能停止したネシアを抱きかかえながらも、ベルはブリッツの方へ向かう。
「何をするつもりだ」という無粋な発言は誰もしなかった。
「ネシアの最後の望みだ」
ベルはネシアのボディにオーのメモリーチップを入れた。
数秒の沈黙の後、ピピッと小さな音がした後にネシアの目が開く。
「ここは……」
「前のリセットぶりだな……オー」
オーがその目を覚ました。
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